「なぁ、ホントにどうしたんだ?」
首を傾げながら心配そうに私を見つめるサッチさん。うん、心配してくれるのは嬉しい。凄く嬉しい。
けど、この状況はどうだろうね!!
「だ、大丈夫だから……っ、は、離れてええぇぇっ!!」
目の前にはサッチさん。その向こうに見えるのは天井。私の背中にはベッド。
どうしてこんな状況になってるんでしょうか!!?
*****
「うわぁ、ビックリした!」
甲板にいたERRORが船室に飛び込んできて言った。「何が?」と聞き返すと「霧だよ!」と興奮した様子で教えてくれた。
「もうね、すごいの! なーんにも見えなかったから何か怖くなって逃げて来ちゃった」
恥ずかしそうに舌を突き出して笑うERROR。畜生、可愛い。
「へぇ……霧が濃い海域なのかもね」
「うん、そうだってマルコさんがさっき教えてくれた。暫く続くから中に入ってろって言われてたんだけどさ、気になって見に行ったら凄かった!」
いいなぁ。きっと私が同じ事をやったらマルコさんに怒られるんだろう。未来の娘だから嫌われたくないってのは分かるけどさ、ここまで露骨なのもどうかと思うの!!
「それ、誰の?」
「サッチさん。取りに来てって言っておいたのに来ないから持って行くトコ。まーったくさァ、ちゃんと取りに来いって話だよね! 寝てたらお仕置きに顔に落書きしてやろうかな」
「アハハッ! サッチさんに言わないでね。見るの楽しみにしてる!」
「任せて!」
ERRORと別れた私はサッチさんの部屋へと向かった。扉をノックしても返事は無いから、やっぱり寝てるんだななんて思いながらノブに手をかけた。鍵のかかってない扉がゆっくりと開く。
「サッチさーん、洗濯物持って来たよー」
言いながら顔を覗かせると、ベッドでぐっすり寝てるサッチさんがいた。あー、やっぱり寝てた。
落ちそうになった洗濯物を抱え直してベッドに近寄るけど、サッチさんは相変わらず「スカー……」って軽く鼾を掻いて寝てる。
「まーったくもう……サッチさーん、洗濯物ここ置くよー」
枕の横に乗せて軽く肩を叩くと、「むぅ……」なんて唸ったサッチさんが私の手首を掴んだ。
「へ? ――うにょわっ!」
何だ今の悲鳴は。状況を確認すると、どうやらサッチさんに抱きしめられちゃってるらしい。何やってんのこのオッサン!!
「ちょ、サッチさーん!?」
ペシペシ叩いてみるけどサッチさんは本気で寝入ってるらしくて起きる気配がない。このオッサン、寝てる間に襲撃されたらまっ先に死ぬんじゃないか?今までよく生きてこれたな……。そんな事を考えてる間にも眠っていていつもより高いサッチさんの体温が私を包み込む。うぬぬ……睡魔が……あ、駄目だ。寝る。
私の意識はそこで途切れた。
何かに触られてる気配で目を覚ました。さっきから太腿とか腹とか頬とか触られてて擽ったい。「うーん……」と唸りながら目を開けると、見慣れたリーゼントが目の前にあった。
「あ、起きた」
「……しゃっちしゃん」
「誰だよしゃっちしゃんて。サッチだサッチ」
「名前はちゃんと呼びなさい!」って物凄い弱い力で頭突きをされた。そのままおでこをサッチさんのおでこでグリグリされる。んー……?何かいつもよりサッチさんがベタベタだぞ……?
何回か瞬きを繰り返すと少しずつ意識が覚醒してきた。誰かの手に太腿からお尻にかけてするりと撫でられて自分のものとは思えない声が出る。え、今の何?
自分の有り得ない声で完全に覚醒した私の目に映ったのは、私のおへそ辺りにちゅっちゅしてるサッチさんのリーゼント。
「ちょ、何やってんのオオォォォォ!!!?」
「タミちゃん煩いー」
「そんな事言ってる場合じゃないよ!? 何してんの!? 何してんの!!?」
「何って何が?」
「何がじゃなああぁぁぁい!!」
叫びながら思わず足を伸ばすと、それはサッチさんのお腹にクリーンヒットした。サッチさんが呻いて蹲る間に慌てて起き上がって布団を手繰り寄せる。な、何がどうなってんの!!?
「おま……何すんだよ!?」
「こっちの台詞だってば! 何してんの!? どうしたのサッチさん!!」
「はァ!?」
「そんなに女に困ってたの!!? 次の上陸はいつだっけ……!? あ、そうだ! エース君にストライカーで連れてってもらいなよ! 今すぐ呼んでくる!!」
そう言ってベッドから下りようとした私が誰かに掴まれる。当然だけど、サッチさんだ。
「なーに訳の分かんねェ事言ってんだコノヤロー! うりゃあっ!」
「うぎゃあぁっ!」
ポーンとベッドに戻される。起き上がろうとする前にサッチさんが私の上に覆いかぶさってきた。ち、近いよ……!!
「まさか、今になって女買ってこいって言われるとは思わなかったなァ。サッチ君泣いちゃうよ?」
「いや、いっそ泣いた方がいいかもしれないよ。どうしたのサッチさん、狂ったの?」
「あのなァ……」
呆れたように呟いたサッチさんが私の頬を撫でる。擽ったさとは別の何かに思わず目を閉じると、サッチさんのおでこが私のおでこにコツンと降ってきた。
「お前がいんのに他の女買ったりしねぇっつーの」
「――っ、」
な、何だこれ!何だこれ……!!!口をパクパクさせてる私の顔はきっと真っ赤なんだろう。そんな私を見てサッチさんは表情を緩めると何を思ったのかいきなり目を閉じた。何かが唇に触れる。
「ハアアァァァァァッ!!!??」
と叫べたらどんなに良かったか。実際は唇塞がれてるから何も言えないんだけどね!!
どうなってんのオオォォォッ!!!??
「っ、ん……っふ、ぁ………」
いやああぁぁ!私の口から変な声出てるううぅぅぅ!!止めて!!生まれてこの方、そんな声出したこと無いよ!!ぶっちゃけちゅーしたのも初めてだよ!!!つーかそろそろ息苦しいよ!!
「っ、ぷはぁっ!」
サッチさんの唇が離れると慌てて息を吸い込む。咽た。もう嫌だ……。
「おいおい、大丈夫か?」
背中を摩りながらサッチさんが声をかけてくれるけど、原因は貴方ですからね!!
「なぁ、ホントにどうしたんだ?」
首を傾げながら心配そうに私を見つめるサッチさん。うん、心配してくれるのは嬉しい。凄く嬉しい。
けど、この状況はどうだろうね!!
「だ、大丈夫だから……っ、は、離れてええぇぇっ!!」
目の前にはサッチさん。その向こうに見えるのは天井。私の背中にはベッド。
どうしてこんな状況になってるんでしょうか!!?
「サ、チさん……」
「ん?」
「あの……な、何で私はキスをされたのでしょうか……」
「はァ?」
「何言ってんのコイツ」とか「お前、頭大丈夫か?」とか「有り得ねぇ」とか。沢山篭ってそうな「はァ?」だった。
いや、私間違ってないよね?ないよね?
「だ、だって……! こ、こういう事は好き合ってる同士がする事であってですね!」
「じゃ、問題ねぇじゃん」
「あるでしょ!? あるでしょ!?」
「あのなァ……まだ寝惚けてんのか? お前は俺の女で、俺はお前の男だろ?」
「は、」
「はああぁぁぁぁぁっ!!!??」って叫ぼうとしたけどその前にまたサッチさんにキスされた。うぎゃああぁぁっ!止めて!!
何!?何なの!?私どんな夢見てんの!!?サッチさんの隣で寝たからこんな夢みてんの!!?
「ひぁ……っ!」
み、耳舐めたよこのオッサン!止めて!ダメ!!何かそこ変な感じする……!!
「〜〜〜〜〜っ!!」
「――おグ……っ!!?」
サッチさんが奇妙な呻き声を上げる。ごめん、つい急所を蹴りました。何やら硬いものがありました。本当にごめんなさい。夢の中でもごめんなさい。使い物にならなくなったら本当にごめん。その時は責任取って嫁にもらうよ……!
悶絶しているサッチさんの横をすり抜けてベッドから下りると、服を整えて部屋を後にした。このまま部屋にいると復活したサッチさんに何をされるか分かったもんじゃない!
何処に行こうか迷ったけど、甲板に行く事にした。甲板に続く扉を開けるとすぐにERRORを見つけた。マルコさんと手合わせをしてる。
「ERROR――ん? あれ?」
ERROR、だよね……?ジッと目を凝らして見つめると、やっぱりERRORと同じ顔だった。けど……・え、あれ?ERRORに雀斑なんてあったっけ?髪も真っ黒だし……ERRORの髪はもうちょっと茶色だった気がするんだけど……。
「攻撃の後の動作が遅ェ! そんなんじゃ、かわされたら最期だぞい!」
「そんな事言ったって……っ、うわぁっ!」
マルコさんの蹴りを食らってERRORらしき子が吹き飛ばされる。うーん……今の声、ERROR……じゃないよね?
おそるおそる近付いてみれば、二人の手合わせを微笑ましそうに見てるリサがいた。
「リサー!」
「あら、タミちゃんどうしたの?」
「聞いてよ! あのね、サッチさんが――」
あれ……?途中で言葉を切った私にリサが首を傾げる。何か……、何だろう……?
「タミちゃん?」
「リサ………老けた?」
そう呟いた直後、マルコさんと手合わせをしてたERRORもどきが私に突っ込んできた。じゃなくて、蹴り飛ばされてきた。当然避けられるはずもなく、悲鳴を上げながら甲板の上を数メートル転がった。い、痛い……!!
「おいコラ、タミ。テメェ何ふざけた事言ってやがんだよい」
「あァ?」なんてチンピラ風にマルコさんが私に近付いてくる。う、うぅ……痛い……!!
「い、痛い! マルコさんのバカ! 酷い!」
「煩ェよい! あれくらい避けれねぇでどうする! ――で、何だって?」
「うぐっ……!」
マルコさんの大きな手のひらが私の両頬を強く掴む。い、痛い……!
「じゅびばじぇん……」
何とか謝罪の言葉を口にすると、マルコさんは私の頭を軽く叩いてから立ち上がった。
「リサが老けたなんてどの口が言うんだよい。あの歳でこんだけ若く見えんのが奇跡だってお前が散々騒いでたんじゃねぇか」
「いや……だって、もっと若かったような……」
皺なんてなかったよ!?そう言えば、リサちゃんが苦笑してマルコさんは呆れたような顔で私を見下ろした。
「お前、何年前の話してんだよい。そりゃ、この船に乗った時はそうだっただろうが、あれから何年経ったと思ってんだ?」
「え? まだ私が乗って一年くらいでしょ?」
「はァ?」
「タミちゃん?」
マルコさんとリサが同時に眉を寄せて首を傾げた。え、私何か変な事言った?
真剣な顔でしゃがみ込んだマルコさんの掌が私の額に触れた。
「熱はねぇな」
「失礼な! 何なのさ!」
「お前、頭でも打ったか?」
「だから何が!?」
「何でお前が乗って一年なんだよい。それじゃあコイツが生まれてねぇだろうが」
そう言ってマルコさんが親指で私の傍に倒れてるERRORもどきを指した。
「そうそう、この子誰? ERRORに似てるなァって思ったんだけど――」
「タミちゃん……?」
「お前……まさか記憶喪失とか言わねぇよな?」
「はァ?」
何言ってんだこのパイナップルは。――てか、あれ?そう言えばこれ、私の夢なんだっけ?じゃあ、未来の夢を見てるって事?
「私の想像力スゴイ……!!」
「なぁ、リサ。コイツ医務室連れてった方が良いんじゃねぇかい?」
「そう、ですねぇ……うーん………タミちゃん今いくつ?」
「へ? 二十四だけど……って、あ、そっか。夢だからもっと年取ってるはずなのか……」
じゃあ、今は何歳なんだ?鏡見てなかったけど、もしかして今の私、結構老けてる?顔を触ってみると目許にほんの少しだけ皺があるように思えた。
「こんなトコまで……!! 夢怖い!! 絶対鏡見ない……!!」
「どうする?」
「どうしましょうか……」
その時、呻き声が聞こえて我に返った。声のする方を向くと、ERRORもどきがゆっくりと身体を起こした。
「イ、テテ……」
「あー……大丈夫?」
「ったくよォ……タミ姉が変な事言ってマルコ怒らせるから……」
「タミ姉……!!」
何て素敵な響き!お姉ちゃんなんて呼ばれたの初めて!!
ERRORもどきがふるふると首を振って、汗で貼り付いた髪を掻き上げた。うん、やっぱりERRORに似てる……けど、雀斑に黒髪って……もしかして……?
「あのー……つかぬ事をお聞きしますが、君はERRORとエース君のお子様でいらっしゃいますか?」
「はァ? 何言ってんだよ姉ちゃん。当たり前ェだろ」
「大丈夫か?」なんて訝しげに私を見る。喋り方はエース君そっくりだ……!
「何この夢……! 私の夢こんなに素敵な未来を作り出すのね……!!」
「バカ言ってねぇで、お前ちょっと来いよい」
「ぐぇ」
マルコさんに首根っこを掴まれてズルズル引き摺られる。うぐぐ……!締まる……!!
「あ! マルコ! 俺の修行は!?」
「休憩だ休憩。ちったァ労われよい」
「まだまだ若ェ奴らには敗けねェって言ってたの何処のどいつだよ! 修行ーーーッ!!」
「あー、煩ェ!! テメェの父ちゃんに頼めよい!」
後ろでブーブー言っている……あ、名前聞くの忘れた。ERRORとエース君の子がどんどん遠くなっていく。そろそろ立ち上がりたい。そう思って上を見上げれば、リサと目が合った。
「マルコさん、歩かせてあげたらどうです?」
「ん? あぁ、忘れてた」
「げほっ、ごほっ! うえっ!」
「汚ェ」
わざとらしく咳き込んでみせれば、マルコさんが感情の篭らない声で吐き捨てた。このパイン・・!!
「行くぞい」
「ど、何処に?」
「何処って、医務室に決まってんだろうが」
「は!? い、いいよ! 折角の未来夢なのに何でそんなトコ行くのさ!」
マルコさんがピタリと立ち止まって私を振り返った。それから呆れたような顔で私の頭に手刀を落とす。
「痛ってぇ!!」
「痛ェのに夢だって言うのかい?」
「………。うええぇっ!?」
そ、そうだよ!痛いよ!夢じゃないじゃん!!
「ど、どうなってんの!? 何でいきなり未来にいんの!? 私の時代カムバーーーーック!!!」
そう叫ぶと、何故かマルコさんとリサが何かに気付いたような顔をした。二人が顔を見合わせて、リサは苦笑してマルコさんは溜息を吐きながら「………今日だったのかい」と呟く。何!?
「マルコさん ……どうします?」
「ったく……昔っから、面倒事はいっつもお前かエースだよい。いい歳なんだからそろそろ落ち着きゃァ良いのによい……」
ブツブツ呟いてからマルコさんが「取り敢えず食堂行くぞい」って私の腕を掴んだ。
食堂に行くと、エース君の背中が見えた。テーブルには沢山のお皿が積まれていて、そのテーブルの向こうに座ってる少しだけ老けたERRORがエース君がご飯食べてるのを微笑みながら見ていた。うわぁ……何て言うか……バカップルっぽい。うん。
「ERROR、エース」
「あ、どうしたの? 修行は終わり?」
マルコさんが呼び掛けるとERRORがヒラヒラと手を振りながらマルコさんに尋ねる。
「あぁ……ちっとばかし面倒な事になっちまってねい」
「面倒な事?」
「何かあったのか?」
丁度食べ終えたエース君がマルコさんに尋ねる。うん、二人とも適度に老けてる……というか、大人っぽくなってる。うわぁ……あの二人はこんな風になるんだ……。うん、ERRORはリサの遺伝子しっかり受け継いで美人だし、エース君も昔からイケメンだったもんね。カッコイイなぁ。
「コイツ」
マルコさんが私を二人の前に突き出して溜息をつく。
「過去のタミが来ちまったんだよい」
「「は?」」
ERRORとエース君が声を揃える。うん、息ピッタリだ。――って、違う違う。
「過去の……って事は、信じてくれたの!?」
「信じるも何も、お前が未来に行ってる間に未来のお前がやって来たからな……」
「あー……、そう言えばあったよね、そんな事」
「今日だったのか……あー……うん、大変だったな」
ERRORとエース君が乾いた笑いを零す。リサを見るとリサも苦笑しながら「取り敢えず座って?」と椅子を差し出してくれた。
皆で椅子に座ると、マルコさんが説明してくれた。つまり、こうして私が未来に来てる間に、この時代の私が過去にやって来て色々と大変だったらしい。
「まぁ、取り敢えず一番の被害者はサッチだったかねい」
「サッチさん?」
「そういやそうだな……」
「でも、見せられた私達も結構辛かったような気がする」
何したの未来の私……!!今そっちで何してるの……!!?
青褪めた私を他所に「そう言えばサッチさんは?」ってリサが尋ねる。あ、忘れてた。
「あー……言いにくいんだけど……」
「ん? もうサッチに会ったのか?」
「いや……起きたらサッチさんの部屋にいまして……向こうでもサッチさんの部屋で寝ちゃったから……」
「え、何? その頃からそういう関係だったんだっけ?」
「ち、違う違う! 洗濯物届けたの! そしたら寝てたから枕元に洗濯物を置いて、サッチさんの顔に落書きしてやろうと思ってたんだけど幸せそうに寝てるから何も出来なくて、そんでずっと見てたら眠くなっちゃって……」
「起きたらこっちのサッチのベッドにいたって?」
頷くとマルコは肩を竦めた。
「そんで、サッチは何処にいんだよい」
「あー……えぇと、ですね。夢の中のサッチさんが訳の分からない事を仕出かすので、つい……」
「つい?」
「その……急所を、ですね……蹴りまして………」
「「………」」
エースとマルコさんが同時に顔を強ばらせた。うん、そうだよね……痛いよね……!!きっと痛かったよねサッチさん……!!!
ごめんなさい!!!って心の中で叫びながらも、私は弁解を試みた。
「で、でもね! いきなりキスしてきたし服の中に手ェ入れてきたからビックリして……!!」
「そりゃ、しょうがねぇよ」
「夫婦だもんね」
エース君の言葉にERRORが続く。え、何て言った?今、何て言った……!?
「ふ、うふ……?」
「そう」
「ふうふ……って、めおと?」
「そう」
「私、と……?」
「そう。タミとサッチさんが」
何処か楽しそうにERRORが頷く。エースを見るとエースも同じように笑ってて、マルコさんは肩を竦めた。縋る思いでリサを見つめれば、リサは苦笑しながら頷いた。
「うそおおおぉぉぉぉぉっ!!!??」
腹の底から叫んだら「煩ェよい!」ってマルコさんに叩かれた。
「サ、サッチさーん……」
ノックをしてからおそるおそる部屋に入ると、ベッドに寝転がって雑誌を読んでいたサッチさんは私を一睨みしてから視線を雑誌に戻した。うぅ……怒ってる……!そろそろと近付くと、その雑誌がボインなお姉ちゃんが素っ裸でポーズを取っていた。このオッサン……!!
「何これ! サッチさん不潔!!」
「しょうがねぇだろ、嫁がヤらせてくんねぇんだもんよ」
誰だよ嫁!!……って、私か。私の所為か。私が何もさせないからこんな雑誌を持ってるのか。
「いや、違うだろ。今日の私はさせないけど、昨日までの私はさせてたんでしょ? なのに何でこれがここにあんのさ」
「他の奴らから奪ってきた」
うわ!何その上手い言い訳!!どっちか分かんないじゃん!
って、まぁいいや。今の私には関係ない。ちゃんと謝って説明しよう。そう思ってベッドの端に腰を下ろして、サッチさんに頭を下げた。
「さっきはごめんなさい。あのですね、実はですね」
「俺が不能になったらお前だって困るくせに」
困るって何ですか……!!聞いてない!私は何も聞いてない!!!
「実はですね、過去からやって来ちゃったんです」
そう言うと、サッチさんは「はァ?」って私を振り返った。訝しげに私を見てたサッチさんが何かを考え込んで、それから漸く合点がいったように一つ頷いて身体を起こした。
「そういやあったな、そんな事も」
「あー……未来の私に酷い目に遭わされたようで……」
「酷い目っつーか……。そりゃ、いきなり俺を叩き起して「しよ」って言われたらさすがの俺もビックリな訳よ」
「し……!!?」
何言ってんだ未来の私イイイィィィ!!!!
「まぁ、そりゃいいか」
「良くないよ!! そそそそ、それで……!? ま、まままさか……ししししてないよね……!?」
どもる私が余程おかしな顔をしてたんだろう。サッチさんは突然ニヤリと口端を上げた。
「内緒」
「何だこのオッサン……!!」
ちょっとドキッとしたぞバカヤロー!!!
心の中で叫んでたら、突然視界がぶれた。
「はぇ?」
「さ、んじゃァちょっくら失礼」
あれ、デジャヴュ?何でサッチさんが上にいるの?何でサッチさんの後ろが天井なの?
もしかしなくても押し倒されてる……?
「ななな、何してんですかあああぁぁっ!!!」
「いや、仕返し」
「はァ!?」
「あの頃、お前に散々やられたし? ちょーっと仕返ししても罰は当たんねェだろ」
「当たるよ!! めちゃめちゃ当たるよ!!! 浮気禁止だよ!!」
「相手はお前なんだから問題ねぇって」
「あるよ!! ありすぎるよ!! 未来の私が怒るよ!!」
「無い無い。つーか、その未来のお前が俺に散々やらかしてくれたんだから」
あ、そっか。じゃなくてええぇぇぇっ!!!
「んむ……っ、」
うああああぁぁっ!!ダメ!止めてええぇぇ!!
ジタバタしてみてもどうにも出来ない。ちょっと泣きたくなってきた……!
「んんぅ……っはぁ、んっ」
角度を変えて何回も何回もキスされるんだけど、何なのこれええぇぇっ!!!
もう訳分かんない!!頭ボーッとしてきたし……!
「タミ」
サッチさんが耳元で私の名前を囁く。擽ったいのに、何か変な感じがする。
服の中にサッチさんの手が滑り込んでくる。
ぼんやりとサッチさんを見つめると、さっきは気付かなかったけどサッチさんの目許に皺があるのが分かった。サッチさんがニヤリと色気のある笑いを浮かべる。
あぁ、カッコイイなぁ……くそぅ。
「愛してる」
恥ずかしくて死にそうなのに、何も考えられなかった。また顔が近付いてきて、私はそっと目を閉じた。
あー……もう、どうでも良いかも……。
意識がぷつりと途切れた。
「ん……」
ぼんやりと目を開けると最初に私の手が見えた。その下には見慣れたスカーフ。温かい何かが私の下にいる。
「タミちゃーん……?」
控えめなサッチさんの声が下からダイレクトに響いてきて、一気に覚醒した私は勢いよく起き上がった。
サッチさんが私の下にいた。
「う、うぎゃあああぁぁっ!!」
悲鳴を上げながらサッチさんから離れると、サッチさんは「戻ったのか……?」なんて呟いてから大きく息を吐いた。
「あー……もう……」
リーゼントが崩れるのも厭わずにサッチさんが頭を掻き回す。どうやら相当お疲れのようだ。
「え、えーと……た、ただいま……」
「………おかえり」
「あの……未来の私、が、来たんだよ、ね……?」
「………あぁ」
「その………な、何をされたの、かなぁ……なんて……」
「…………」
教えてくれないサッチさんに不安が募る。
何したんだ私イイィィィィ!!!
「え、えーと! あのですね! 未来に行ってました!!」
「……知ってる。お前に聞いた」
「そ、それでですね、えーと……あ、そうそう! ERRORとエース君が結婚してて子どもがいて……!」
「聞いた」
「リサとマルコさんの事は聞いてないんだけど、多分……」
「聞いた。結婚してる」
頭を抱えて俯いたままのサッチさんが事務的に答える。うー……この空気キライ!
「そ、それで、ですね……あの……えーっと……」
言えるはずない。私とサッチさんが結婚してただなんて。だって、あれは未来に起こる事なんだから。
私まで黙り込むと必然的に部屋は沈黙で満たされて、何と言うか……嫌な空気だった。
「………俺ァ、ショックだった」
「へ?」
どれくらい続いたか分からない沈黙を破ったサッチさんの言葉に私は素っ頓狂な声を上げた。
「俺の嫁がお前だって事もそうだけど」
「う……」
「未来のお前に色々されて何も仕返し出来なかった事が物凄くショックだった」
「………」
何したんだ私イイイイィィィ!!!
「い、色々、って……」
「…………」
何でそこで黙るの!!?と言うか、ちょっと待って!
「そ、それを言うなら……! 私だって未来のサッチさんに色々されたもん……!!」
「はァ?」
サッチさんが顔を上げて私を見る。目が合った瞬間、何故か心臓が速くなった。慌てて俯いたけど治まらない。
「い、いきなり、キス、されたし……っ、服の中、手、突っ込まれたし……っ、」
「……………」
「い、いっぱい訳分かんなくなったもん!!」
そう叫んだ次の瞬間、私はサッチさんの腕の中にいた。
な、何!?どうなってんの!?未来!?ここはまだ未来!!?
「あー……タミさん」
「………ハイ」
「取り敢えずですね」
「は、はい……」
「キスして良いですか?」
「は?」
「いや、どうせ結婚するんだし、俺やり返さねェと気が治まらねェし」
「ちょ、ちょっと待った……! 私まだサッチさんの事そういう風には……!」
「俺もだから大丈夫」
「大丈夫じゃなああぁぁい!! イ、イゾウさああああぁぁぁぁぁん!!!!!」
「助けてええぇぇ!!」と叫んだ瞬間、扉が勢いよく開いて銃声が轟いた。
「テメェ!! 元のタミに戻ったら何もするなっつっただろうが!!!」
「ぎゃあああぁぁぁぁ!!!」
サッチさんの断末魔を聞きながら、ほんのちょっとだけ拒んだ事を後悔した。
そんな事誰にも言えないけどね!!