07


腕いっぱいに荷物を抱えて船へ戻る途中、ふと誰かに呼ばれた気がして足を止めた。
辺りを見回してみるが、誰もいない。

「………気の所為か」

考えたくはないが、歳か?なんて首を傾げながら再び歩き始めて数秒。

「サッチさーーーーーん!!!」

今度は確実に聞こえた。間違いない。しかもあの声はタミだ。
立ち止まって振り返れば、あぁ、やっぱり。

「よぉ、タミ。どーしたんだ? んな血相変えて」

つーか、ERRORちゃんとエースはどうした?
そう続けようとした俺に、タミは立ち止まることなく突進してきて――

「ぐあっ……!」
「聞いてよサッチさん!!」

酷いんだよ!! ムカつくんだよ!!
俺の手が荷物でいっぱいだってことに気付いてるからわざわざ背後に回ってくれたんだろうけど、正直、頭突きされた背骨がめちゃめちゃ痛いですタミちゃん。
そんな俺の状況なんて気付かずに、タミは怒りを露に喚き立てる。

「何だよ、エースとでも喧嘩したか?」

アイツら何処だ?尋ねた俺に、
知らん!!叫ぶタミ。

「つーか、エース君何処だよ!! 何でERRORと一緒じゃなかったわけ!!?」
「は? え、どういう意味だ?」

ほら、落ち着け落ち着け。深呼吸深呼吸。
宥めるように言い聞かせれば、タミは何度も深呼吸をして漸く落ち着きを取り戻した。
それから事情を聞き始めたんだが、どうも嫌な予感しかしねぇ。

「綺麗なお姉さんの家に迷い込んで」

「そこから豪華なお屋敷に続く隠し通路通って」

「お屋敷の中に連れ込まれるERROR見つけたんだけど」

「すっごい腹立つ奴が追い返すか殺せとか言いやがって」

「ムカついたからバーカって叫んで逃げてきた」

唇を尖らせながら大まかに説明してくれたタミに溜息を零して。

「まぁ……とにかく、お前が無事でよかった」
「でも、ERRORが」
「本当にERRORちゃんだったんだな?」
「たぶん……遠くから見ただけだけど、でも服も髪型も同じだったし……声も似てた!」

断言するタミに、どうしたものかと眉を下げる。
タミの言うお屋敷ってのは、間違いなくさっき聞いた領主の屋敷のことなんだろう。
タミが迷い込んだ綺麗なお姉さんの家ってのは、多分愛人だったって女だ。

「――あれ? でも、確か愛人って結構な歳だったはずじゃ」
「あ、サッチさんも知ってるの? うん、見た目すっごい若くてすっごい美人なんだけど、十六歳だった娘を追い出したって言ってたから……」
「ははぁ……要するにアレか。リサちゃんみてぇな感じか」

呟いた俺に、タミは大きく頷いて、「あ!」と声を上げた。

「そう言えばね、その隠し通路っぽいところ通ってる時に肖像画っぽいのが落ちてて」
「肖像画ァ?」
「そう。多分そのお姉さんが捨てたんだと思う。その絵がね、ERRORにそっくりだったの」
ERRORちゃんに?」

眉を寄せた俺にタミが大きく頷く。

もっと小さくて十歳くらい……かな?
笑った顔とかも同じなんだけど、何て言うか……しっくりこなかった

そう続けるタミの言葉は、半分くらいしか聞き取れなかった。

ERRORちゃんにそっくりな肖像画。
領主の愛人だった年齢不詳の女と、追い出された娘。
屋敷に連れて行かれた、ERRORちゃん。

いやな、予感がする。
待て。
待て待て待て。
だって、それって、つまり――

『すみません、ちょっと具合が悪いので……船に残ってますね』

体調が悪いようには見えなかった。
島に降りたくないんだろうってのは何となく分かったけど、その理由がこれだとしたら――

「………まさか、」
「え、何? 何て言ったの?」

小さな呟きを聞き取れずにタミが首を傾げるが、恐ろしくてこんなこと言えるはずもない。

「……つーか、それってもしかしてスゲェヤベェんじゃ……?」
「ねー、サッチさーん?」

こうしちゃいられない。

「おいタミ! 走るぞ!!」
「へ? ちょ、あー! 待って!!」

船に向かって走り出した俺に、慌ててタミも走り出す。
頼むから、外れててくれ。そう願うけど、俺の直感はそこまで錆びちゃいない。

「マジかよ……!!」

船に戻って甲板にいた奴らにリサちゃんの居場所を問えば、厨房で掃除をしてると返ってくる。
礼の言葉と共に買ってきたものを全部押し付けて、遅れて甲板に上がってきたタミを脇に抱えて厨房まで急ぐ。

「リサちゃん!!」

勢いよく飛び込んだ厨房にはリサちゃんとマルコがいて、何故かマルコがリサちゃんを横抱きにして膝に乗せていて。

「何しとんじゃアホマルコーーーーッ!!!」

俺に抱えられながら叫ぶタミに驚きながらリサちゃんがマルコから離れる。
多分、俺が真剣な顔をしていたからだろう。マルコもリサちゃんもすぐに何かを察して聞く態勢に入ってくれた。

「大変だ……! ERRORちゃんが……!!」

ERRORちゃんの名前に、リサちゃんの顔が瞬時に強ばる。

あぁ、やっぱり。

大変な状況だというのに、俺の頭は驚くほど冷静にそんなことを考えていた。