しょぼくれた顔して部屋に戻ってたエースも戻って来た。ERRORちゃんが何言ったのか知らねェけど、もうすっかり元気みてぇだ。単純な奴だぜ、ホントに。マルコもすっかり元気になっちまってるし、あぁ、本当に。
「ベタ惚れだな、アイツら」
苦笑混じりに呟くが、嬉しいって思っちまうのも事実で。オヤジと家族第一なアイツらに惚れた女が出来るってのは良い事だと思う。相手がリサちゃんやERRORちゃんなら嬉しさ倍増だ。変な女に引っかからないでくれた事も喜ばしい。
「くぉーら! サッチィ! 飲んでるかァ!?」
「……ちょーっと見ない間に随分とまぁ、酔っ払っちまってんなァ、ナギさんよ」
グヘヘヘ!なんて笑いながら俺の隣に腰を下ろしたナギは既に真っ赤だった。それなのに手にはまだ酒瓶がある。さすがとしか言いようがない。人のことは言えねェが、こいつらも中々に飲んだくれ海賊団だと思う。
「サッチぃ、あのさぁ」
「あー?」
「毎日ー、たのしーですかー?」
「何だそりゃ」
「みーんな笑ってますかー?」
大丈夫かコイツ。呆れたようにナギを見れば、ナギはマルコ達のいる方を見ていた。そこにはエースもリサちゃんもERRORちゃんもタミもいる。
「しあわせそうですねぇー」
「そうだな、まぁ……幸せだと思ってる」
改めて口にするのは照れ臭い気もするが、本心だ。家族が元気で、毎日楽しく過ごせてる。こんな幸せな事はねェ。甲板を見渡せば、あちこちで酔っぱらい共が笑っている。聞く奴らによっては下品だとか何だとか色々言うんだろうが、俺はこれで良いと思ってる。心から楽しいと思って笑えるのが一番だ。
「サッチくんはー、かぞくおもいですねー」
「お前、そろそろ酒止めとけって。ベックマン呼んでやろうか?」
「ん? んん、おー、そうだねー……ちゃんと言わないとだよねぇ」
「はぁ?」
何言ってんだ?って口を開こうとした時だった。
突然立ち上がったナギが覚束無い足取りでマルコ達の元に歩いていく。アイツ、あんな状態でまだマルコに絡みてぇのか。それともエースか?なんて思いながらナギを見てると、何故かナギはマルコでもエースでもなく、タミの目の前で立ち止まった。キョトンとナギを見上げるタミの間抜けな顔が見える。
「おーきくなったねー」
「へ? え? あ、はい、どうも……?」
「何だ、知り合いなのか?」
エースがタミに尋ねると、タミは首を傾げながら「えーと、何処かでお会いしましたっけ?」なんてナギに尋ねている。アイツら知り合いなのか?俺も立ち上がってタミ達の所に向かうと、そろそろアイツを船に戻した方が良いと判断したらしいベックマンが同時にこっちにやって来た。
「ナギ、お前そろそろ船に――」
「あー、ベンだー」
「――戻ってちゃんとそこで――」
「うふふー、タミちゃん、かわいいでしょー」
ベックマンの言ってる事が分かってないのか、タミを抱きしめてナギが笑う。抱きしめられた本人と言えば、「うぎょ!? な、何この状況!?」なんて驚き戸惑っている。うぎょって何だようぎょって。
「ナギ、お前タミのこと知ってんのか?」
「あのねー」
俺の質問すら聞こえていないのかわざと無視しているのか、ナギはタミを抱きしめたままベックマンに笑いかける。
「これ、わたしとベンのむすめー」
「へ?」
「「「は?」」」
「うそ!?」
「あ、そうなんですか」
突然のナギの暴露に最初に素っ頓狂な声を上げたのはタミだ。次は俺とマルコとエース。ERRORちゃんが目を丸くしてベックマンとナギとタミとを見て、リサちゃんはさして驚いた風もなくあっさり受け入れてる。当の、暴露された本人はと言えば。
「…………は?」
俺が見た限りでは滅多に表情を変える事のないベックマンは、その目を最大限見開いてポカンとナギとタミを見下ろしていた。スゲェ間抜けな声が出たなオイ。
「え、タミお前の親父ってベックマンだったのか?」
「いやいやいや! 違うよ!? だって島にいるし!」
「メイトはー、血がつながってませーん」
「おおお父さんの事知ってるの!?」
「うんうん! だってー、わたしのたーいせつなたーいせつなー、だんなさまー」
酔っ払いの間延びした声にタミは口をぱくぱくさせるばかりだ。え、マジで言ってんの?メイトってのはタミの親父の名前なのか?え、ガチなの?マジで?冗談でなくて?
ナギが冗談だって言ってくれるのを待ってるのは俺だけではないはずだ。いつの間にか甲板中が静まり返ってこっちに向いている。いつの間に聞いてたんだ、お前ら。
「何だナギ! お前の娘なのか!」
空気を読まずに声を上げながらこっちにやって来たのは赤髪で、そんな赤髪の問いにナギはあっさり肯定した。
「そうなのー、かわいいでしょー」
「ほー、そりゃめでてェ! んー? でも、あんま似てねぇな」
誰一人動くことが出来ない中、ナギとタミの前にやって来た赤髪が二人の前にしゃがみ込んで二人を見比べる。ナギは相変わらずご機嫌にタミを抱きしめて「タミちゃーん、あいたかったー」なんて笑ってるし、タミはポカンとした顔のまま固まってる。ベックマンも固まってる。そりゃそうだろうな。否定をしねェって事は、身に覚えがあるんだろう。まぁ幼馴染みらしいしな。そういう過去があってもおかしくはない。
「ほ、ホント、に……?」
掠れた声がタミの口から零れ落ちた。タミの頭に頬擦りしながらナギがうんうんと頷く。
「おかーさんが海賊なんてイヤかなーとおもってさー、死んだってことにしておいてって言って家を出たんだけどねー……ようやくタミちゃんに夢中になれるものが出来たってメイトが言ってたけど、まさか海賊になってるとはねー、しかも白ひげ」
あはは、と笑うナギにタミは困惑の表情を浮かべるばかりだ。当然の反応と言えば当然の反応で。けど、気付いちまった。タミの目にじわじわと透明な膜が張っているのが見える。
「ずっと、寂しいおもいさせちゃってごめんね、タミちゃん」
相変わらず顔は真っ赤で酔っ払ってるのが一目で分かる。けど、ごめんってタミに謝った時のナギの目は、ERRORちゃんを見るリサちゃんの目とよく似ていた。じわり、じわりと滲んだ涙が決壊して頬を伝った。
「お、か、さん」
「うん」
「ほんと、に?」
「うん」
じっと見つめて頷くナギに、タミはそれ以上何も言わずナギの背中に腕を回した。小さな子どもが母親に縋り付いて泣いているようなその光景に、俺らは何も言えずにただ顔を見合わせて微笑んだ。
ナギとベックマンの事情なんて分からねェし、タミが父親だと思ってた奴とナギとの事情だって俺らには分からねェ。
ただ、必死にナギにしがみ付いているタミが、どれだけ寂しい思いをしてたかってのはよく分かった。
「よく頑張ったな」
二人の前に屈みこんでタミの頭を撫でてやれば、途端にぶわっと泣き出したタミが俺に飛び付いてきた。
「うええぇぇ……! サッヂざああぁぁん……!!」
「ちょ、タミちゃん顔汚い……!」
鼻水だか涙だか分からないくらい顔中濡らしたタミが俺の服に顔を擦りつける。悲鳴を上げながらも突き飛ばす事はしなかった。何となく、したくなかったのかもしれない。
「おー、よしよし。サッチさんが聞いてやろう、言ってみ?」
「お、おか、さん」
「おー、良かったなァ、会えて」
「おか、さん、びじん、で」
「まぁ、顔だけはな」
「サッチひどい!」
ナギの叫びは無視だ。
「お、と、さんも」
「おー、ベックマンまだ固まってるけどな」
「いけめん、なのに」
「まぁ、サッチ様には劣るけどな」
「わ、わたし、だけっ、フツーなかお……!」
ズルッ!ドタッ!ベチャッ!そんな音があちこちから上がった。次いで上がるのは「そこかよ!!」なんてツッコミ。
「会えて感動して泣いてんじゃねェのかよ!」
「まぁ、それだけ差が出りゃ誰でも落ち込むわな」
「イ、イゾウさん酷い……!!」
くつくつと喉を鳴らすイゾウにタミが益々泣きじゃくる。おーおー、悪そうな顔。俺がやったら容赦なく銃ぶっ放すくせ……!
そんな事を考えてると、ERRORちゃんが俺達の所にやって来てしゃがみ込んだ。
「タミ、タミ」
「………?」
「良かったね、お母さんに会えて」
もしかしたら、ERRORちゃんはタミから何か聞いていたのかもしれない。寂しかった、とか、お母さんに会いたい、とか。キョトンとERRORちゃんを見てたタミは、みるみる顔を綻ばせていって、大きく頷いた。
「――うん!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔だったけど、その笑顔が可愛いなんて思ったのは……アレだ!大事な妹だからだな、うん!