「へぇー、ナギさんてベンさんの幼馴染みなんだー!」
「知らなかったー」と笑うERRORに、ナギさんはケラケラ笑ってお酒を呷る。
「リサとERRORがシャンクス達と知り合った頃はちょくちょく遠征に出てたんだよ。幹部が揃ってシャボンディ諸島に入り浸ってるから何してんのかと思えば、こんな可愛い子ちゃん達と一緒にいたのかー。そりゃ、入り浸りたくもなるよねぇ。ねぇ、シャンクス?」
「ははっ、そう言うなって」
何処か責めるようなナギさんの視線をシャンクスは笑い飛ばしてお酒を飲み干した。空になった瓶を床に置きながら、遠くを見つめて頬を緩めた。
「あの頃はなぁ……思い返せば大変だったよな。なぁ、ベン?」
「そうだな……」
シャンクスの言葉に静かに頷いて、ベンさんがERRORの方を見遣る。ERRORはルウさんやヤソップさん達とお酒を飲んでいる――満面の笑みで。
「なぁ、リサ。ERRORの笑顔は可愛いな」
「うん、すっごく」
シャンクスの言葉に即座に頷けば、シャンクスもベンさんもすぐに笑い出した。それから、シャンクスの右腕が私の頭を抱え込んで肩に押し当てる。少し態勢が辛かったけど、嬉しかったから我慢した。
「よく頑張ったな」
優しい言葉と頭を撫でてくれる温かい手にそっと目を閉じる。シャンクスは昔も今も変わらない。初めて会った時からずっと私の味方で、ずっと私の大切な人だ。ERRORにとっても、そうだと思う。
「うん……ありがとう、シャンクス」
「惚れたか?」
そうやってすぐに空気を壊す。本気だってシャンクスは言うけど、もしかしたらわざとなんじゃないかな、とも思う。シャンクスはいつだって、私やERRORを笑わせてくれるから。
「大好きだよ」
「そうかそうか! よし、結婚式を挙げよう!」
「シャンクスがERRORのお父さんになったら、ERRORは凄く喜ぶと思うよ」
「だろ!? そう思うだろ!?」
「けど……そしたら、この船にはいられなくなっちゃうよね」
シャンクスの楽しげな笑い声がピタリと止む。やっぱり、そうなっちゃうよね。
「ERRORはね、この船にいるよ」
「………それは、お前の意思か?」
「ERRORの意思だよ」
そう返せば、シャンクスは静かに微笑んで「そうか」って呟く。
「ERRORももう十七だもんな、恋の一つをしてもおかしくないか」
「それもあるけど……この船は、ERRORの家だから」
「――そうだな、ここは間違いなくERRORの家だ」
私の頭にシャンクスの頭が傾いてくる。少しだけ重いけど、その重みは優しくて温かくて、嬉しかった。
「リサの家でもあるだろう?」
「………そう、だね」
「いつかは言うのか?」
「アイツに」と呟いたシャンクスは、きっとマルコさんの方を見てるんだろう。私もマルコさんを探せば、オヤジさんの所でサッチさん達とお酒を飲んでるマルコさんを見つけた。いつもはすぐに合う視線も、今は全く合わない。マルコさんがこっちを見ることはなかった。
「言わなきゃダメ、かなぁ?」
いつか全部話すと言ったけど、本当は言いたくなんてない。いつかが来なければ良いなんて思ってる私は本当に臆病者だ。怖い。マルコさんに、この船の皆に、ERRORに拒絶される事が怖くて堪らない。
「大丈夫さ」
そんな私の不安を見透かしたかのように、シャンクスが笑って肩を抱いてくれる。力強いその腕に涙が滲んでそっと目を閉じた。
「大丈夫だ、俺達がついてる」
「………うん、」
「どうしても駄目だと思ったら、こっちに来れば良い。俺達はいつだって大歓迎だ」
「うん、」
前髪を直すふりをして目許を隠す。きっと、シャンクスには気づかれているんだろうけど。
「俺達はいつだってリサの味方だ」
「ベン! それも俺のセリフだろ!!」
「悪いな、つい」
「ったく……!」
「あははっ!」
突然割り込んできたベンさんにシャンクスが大声を上げる。何年経っても変わらない遣り取りに声を上げて笑えば、シャンクスとベンさんは「やっと笑ったな」なんて私の頭を撫でてくれた。
「リサには笑いが足りねェって言っただろ」
「もっと表に出してやれ、ERRORもこの船の奴らもそれを望んでるはずだ」
「うん――うん、そうだね」
出会った時からずっと私の味方でいてくれる、大切な人達。本当に本当に、大好きだと思う。シャンクスの望む『好き』とは違うけど、それでも。
「シャンクス達が先に誘いに来てくれてたら、一緒に旅をしてたかも」
「ホントか!? そいつは勿体ない事をしちまったなぁ……」
「毎日のように宴を開いて酒に溺れていたお頭の責任だな」
「そりゃないぜ! みーんなで楽しく酒盛りしてたじゃないか!」
ツンとそっぽを向くベンさんに必死に弁解するシャンクスを見てまた声を上げて笑う。
とても楽しくて、温かくて、幸せだって思う。
「ちょっとごめんね」
二人に断って席を立ち、甲板を軽く見渡すとERRORの姿は見つからなかった。何処に行ったんだろうか、と首を傾げたけど、何となく察しがついて口元が緩んだ。いつもはすぐに見つかるオレンジ色の帽子が見当たらない。
「親子って似るんだなぁ」
そう呟いてオヤジさん達の所に向かう。サッチさんが先に気付いてマルコさんの肩を叩くと、振り返ったマルコさんと目が合った。微笑みかけると、ほんの少しだけ曇った笑顔が迎えてくれた。少しだけ横にずれてくれたから隣に腰を下ろすと、新しい酒瓶を渡される。
「こっちに来ちまって良かったのかい?」
「大丈夫です。――久しぶりに会えて良かったです」
「そうかい」
優しく微笑んでくれるマルコさんは、やっぱり何処か複雑そうと言うか……。ずっとシャンクスたちと一緒にいたから嫌な思いをさせてしまったのかもしれない。
「恩人なんです、私とERRORにとって……言葉で言い尽くせないくらい、凄くお世話になって……」
シャボンディ諸島に着いた頃、私はまだ人形だった。レイさんとシャッキーさんのおかげで少しずつ人間らしくなれたけど、上手く笑う事が出来なかった。そのままの状態でERRORを産んで育て始めたけど、私が笑わない所為かERRORも表情が乏しい子だった。殆ど感情を表に出さない子で、レイさんもシャッキーさんも心配していた事をよく覚えてる。
そんな時に出会ったのがシャンクス達だった。
『へぇ、リサっていうのか! 俺はシャンクス、よろしくな!』
『ほーら、ERROR! 海王類の肉だ! 俺が仕留めたんだぞ! たくさん食ってくれよ!』
心から楽しそうに笑うシャンクス達につられるようにして、私もERRORも少しずつ笑うようになっていった。
悲しい時に泣き、怒った時に顔を顰め、楽しい時に笑う。私達に感情を与えてくれたのは、人間らしく生きる事を教えてくれたのは、他でもないシャンクス達だった。
「こうしてまた会えて良かったです。今の私達を見てもらえて良かったって……そう思ったら、マルコさん達にどうしても伝えたくて……」
あの時より表情豊かになった私達を見て、シャンクス達はとても嬉しそうな顔で笑ってくれた。
「この船に乗せてもらって、毎日とても楽しくて……幸せです、私もERRORも――あの日、島で会えたのがマルコさん達で本当に良かったです」
「ありがとうございます」と続ければ、呆然としていたマルコさんやサッチさん達が徐々に表情を緩めていって、とても嬉しそうに顔を綻ばせた。喜んでくれたことが嬉しくて、私も顔を綻ばせる。
「これからも、よろしくお願いします」
深々と頭を下げれば、大きくて温かい手が頭に乗った。少しだけぎこちなく、けれどとても優しく撫でてくれるこれは、マルコさんの手だ。もうすっかり覚えてしまった。
「こちらこそ、よろしく頼むよい」
柔らかく微笑むマルコさんに私も微笑む。
「ちっとばかし心配だったんだよ、リサちゃんもERRORちゃんも赤髪の船に乗りたいって言うんじゃないかって」
頭を掻いて苦笑を浮かべるサッチさんの言葉に目を丸くしてマルコさんの方を見れば、マルコさんも照れ臭そうに首を擦りながら笑った。
「シャンクス達は確かに好きですけど……私達の家はここですから。これからも皆さんと一緒にいたいです」
「あぁ、俺達もだよい」
「当然だろ! なァ!?」
サッチさんの呼びかけに、皆が盛大に歓声を上げる。あちこちで上がる叫び声はどれもこれも温かくて優しいものばかりで、嬉しくて擽ったくて、私はまた声を上げて笑った。
「よっしゃ! そんじゃ、俺らの大切な家族に!!」
「「「カンパーーーイ!!!」」」
ジョッキがぶつかり合う音と皆の笑い声、それを掻き消すくらいのオヤジさんの笑い声が甲板中に響き渡った。