04


赤髪達と一緒になって笑ってるリサちゃんとERRORちゃん。
久しぶりの再会らしいから、嬉しいのは分かる。そりゃ、懐かしい奴に会えば誰だって嬉しくなる。
けど、何て言うか……こう……。

「面白くない」

隣に立つタミが低い声で呟いたのが耳に入った。それだ。面白くない。
いつになく真剣な顔のタミは眉間に皺を寄せてリサちゃん達と笑ってる赤髪達を睨み付けている。

「リサもERRORも私んだーーーっ!!!」

両手を突き上げて叫びながら、タミがリサちゃん達の所に突っ込んでいく。アイツすげェな。一番べったりしてる赤髪とリサちゃんを引き剥がすべく突進していったタミは、二人の間に無理やり割り込んでリサちゃんに抱きつきながら威嚇するように赤髪を睨み付けていた。

「イケメンだからって調子に乗んな! リサもERRORもあげないんだからね!! マルコさんにもエース君にもあげないって決めてるんだから!!!」
「何だと!? リサ! ERROR! 俺に内緒で男を作るたァどういうこった!!」
「ま、まだそんなんじゃないもん!!」

赤髪の言葉に一早く反応したERRORちゃんが真っ赤な顔で叫ぶ。チラと末っ子の方を振り返ると、多分さっきのタミと同じような顔をしていたであろうエースはERRORちゃんの『まだ』って言葉に反応したのか真っ赤になって俯いている。おーおー、若いってイイなぁ。

「て言うか、シャンクスに言わなきゃダメなの?」
「当たり前だ!! 何処の馬の骨とも分からん奴に大事な娘をやれるか!! リサはもっとやらん!!」
「シャンクスってば昔から同じことしか言わないんだから」

呆れたように笑うリサちゃんは何と言うか……俺達に対する態度とちょっと違う、気がする。ERRORちゃんに対するのと同じような感じっていうか……。完全に心を許してるっていうか……。いや、俺達が心を許されてないって訳じゃないんだろうけど………上手く言えねェな。
何つーか、血の繋がった肉親に対する接し方って言うの?シャンクス達に対して遠慮とか気遣いとか、そういうのが殆ど見えない。面白くない。
で、俺がこんだけ面白くないって事はだ。ウチの長男はとんでもない事になってるはずだ。怖いから見ないけど。

ERRORは随分と逞しく育ってるな」

ERRORちゃんの頭をくしゃりと撫でながらベックマンが微笑む。お前そんな風に笑えたのか。ERRORちゃんはすんごい嬉しそうな顔で笑っちゃってるし。ちょっとー。頬っぺ赤いよあの子。エースの顔が酷くなんぞー。

「可愛いでしょ?」
「おう! さすが俺の娘だ!!」
「ベンさん、最近レイさんに会った?」
「軽くスルーか! 相変わらずだなァ、お前も!」
「あぁ、半年ほど前にな。変わらず元気だ」
「ベン! お前もか!!」
「良かった、レイさんにもいつか会いたいとは思ってるんだけど……」

赤髪そっちのけでベックマンと話に華を咲かせるリサちゃん。赤髪が唇を尖らせながら「リサはいつもそうやって……」とか「ちょっとくらい俺になびいても……」なんてぼやいてる。どうやら全く相手にされてないらしい。
これならそこまで心配しなくても良さそうだが……まぁ、リサちゃん達がアイツらに対して完全に心を許してるって事実は変わらねェけど。

「リサもERRORもあげないんだからね! 白ひげ海賊団なの!!」

突然叫んだタミに甲板中が一瞬シンとする。それからすぐに赤髪が笑い出した。

「だっはっは! この船にゃ面白ェ奴がいるんだなァ!」
「可愛いでしょ」
「バカにすんなー! バカー!!」

赤髪にぐしゃぐしゃと頭を撫でられてるタミが噛み付くように声を荒らげる。既に顔が真っ赤だった。酔っ払ってんな、アイツ。ったく、しょうがねぇ奴。

「おーい、タミ。とっととこっち来い」

手招きすれば、タミはカッと目を見開いて俺に向かって叫んだ。

「何言ってんだリーゼント!!!」
「リーゼント馬鹿にすんな!!」
「私がここを離れたら一体誰がリサを護るって言うの!? あっという間にこのイケメンなオッサンの餌食だよ!! やい! そこのイケメン! イケメンだからって調子に乗らないでよね! この船にだってねェ! ロナン君みたいに雰囲気だけイケメンが多いんだから!!!」
「テメェ! タミこの野郎!! 一発ぶん殴らせろ!!!」

名指しで呼ばれたイゾウんトコの隊員が青筋を浮かべながら立ち上がる。ズカズカとタミに向かってったロナンは、タミの前でピタリと足を止めるとポケットから何かを取り出してタミに差し出した。何だ?

「くれ!!」

リサちゃんにしがみ付いてビクビクしてたタミが一瞬で目を輝かせてロナン君に飛びつく。そんでもって殴られた。

「俺が、何だって? あァ?」
「ご、ごめんらはい……」

両頬をむぎゅっと挟まれてタコみてェな口にさせられながらタミが謝る。つーか、アイツ今何見せたんだ?

「ったく……オラ、とっととこっち来い!」
「ま、待って……! 私のお宝……!!」

タミの首根っこを掴んで持ち上げたロナンはそのままタミをズルズルと引きずって俺の所にやって来た。タミはさっきロナンが見せた何かを必死に強請っているが、ロナンはそれを無視して俺にタミを押し付けた。

「サッチ隊長、ちゃんと見ててください」
「え、俺が悪いの?」
「そいつの教育係はイゾウ隊長なんすけど、今連れてったら殺される気がするんで隊長お願いします」

ロナンの視線の先を見てみれば、イゾウはハルタやラクヨウ達と何かカードゲームをしてるらしい。邪魔したら確かに殺されそうだ。タミを受け取った俺はヒラヒラと手を振って応えるとタミを隣に座らせて酒を呷った。

「むううぅぅぅ……!!」
「なーに、ぶちゃいくな顔してんのよ」
「だって! つまんない!! リサもERRORもあっちなんだもん!」
「しゃーねェだろ? 久々に会ったってんだから。ほら、エース。お前もこっち来なさい」

手招きをすると、エースもタミと同じように不貞腐れた顔でやって来た。不機嫌さを隠しもしないで座ったエースは自棄だというように酒を一気に呷っていく。マルコも呼んでやろうかと思って甲板を見渡したけどその姿は見えなかった。

「あ? マルコ何処行ったんだ?」
「知らねーよ」
「パインなんかに構ってられるか……!」

未だに赤髪達の方を睨むように見ながらエースとタミが答える。タミちゃん、お前後で酷い目に遭うぞ。
しっかし、ホントにマルコ何処行ったんだ?首を傾げながら甲板を見渡していた俺は、ふと気が付いた。

「………アイツか」
「アイツって?」

俺の呟きを聞き取ったらしいタミが首を傾げる。そういや、知らねェんだよな。

「何つーか……とんでもねェのがいんのよ。赤髪の船には」
「とんでもねェの?」
「あー、そういやエースも会った事無かったか。ここ数年来てなかったもんな」

それじゃ、まぁ……このサッチさんが教えてあげよう。

「赤髪んトコの幹部の一人でな。確かベックマンの幼馴染みだとか何とか……これがまた結構な美人でよ」
「サッチさん好みの?」
「サッチは女なら何だって好みだろ」
「あ、そっか」
「こらそこ! 真面目に聞きなさい!! ゴホン、あー……まぁ、美人なんだよ。外見は」
「「外見は?」」

エースとタミが声を揃えて首を傾げる。俺はそっとアイツとの出会いを思い浮かべながら口端を上げた。きっと遠い目をしてるんだろう。

「ホンット、見た目だけはイイ女でなぁ……声をかけたら意外とイケそうな感じで、あん時の俺は若かった……」
「え、もしかして昔話聞かされるの?」
「年寄りの昔話とか面倒だよな」

こそこそと顔を寄せ合って囁いてる二人に手刀を落としてやった。まだ年寄りじゃないもん!!!

「けど、一回話してみたら………まぁ……何つーか……変態でな」
「はァ? 変態?」
「タミの事か?」
「酷い! エース君、私の事ずっと変態だと思ってたの!?」
「うん」

頷くエースをぽかぽかと殴り付けるタミ。全く痛くねェってエースが笑ってる。

「つーか、お前も十分変態だったな。アイツの方がヤバイけど」
「サッチさんまで酷い!!」
「タミ以上ってヤバくね? そんで、そいつが何なんだよ? どいつ?」

エースも甲板を見回すけど、アイツの姿はやっぱり見つからない。

「まぁ、その内ひょっこり現れんだろ。嫌でも見れるさ、きっと今頃マルコが――」
「いい加減にしろ!!! 鬱陶しいんだよい!!!」
「――ほらな」

船尾の方から聞こえたマルコの怒声に甲板中が一瞬静まり返る。けど、すぐに皆その理由に気付いて声を上げて笑い出した。

「まーたやってやがる!」
「隊長がんばれー!」

両船クルーの暢気な声とオヤジの笑い声が響き渡る。リサちゃんとERRORちゃんは分からないみたいで少しだけ困ったような顔で、爆笑してる赤髪達に尋ねてる。どうやらアイツとは面識が無いみたいだ。

「何だ?」
「え、どうしたの?」

エースとタミも立ち上がって船尾の方を見てる。

「まぁ、見てろって。すぐに来るだろうから」

俺の言葉通り、不死鳥に変身したマルコが全速力でこっちに飛んできた。その顔は敵襲の時よりもマジだった。
その後を追いかけてくるのは――やっぱりアイツだ。

「おーほほほほ! 待ちなさい美脚マルコ!!!」
「テメェ気色悪ィんだよい!!!」
「私から逃げられるとでも思ってるのかしら!!? 覚悟しなさい!! 今日こそその美脚をじっくりねっとり撫で回してやるわ!!!」

素早い動きでマルコに飛びかかる女をギリギリの所でかわしたマルコが俺達の所に飛んできた。

「サッチ!!! テメェ早くアイツをどうにかしろよい!!!」
「おーおー、相変わらずだなお前ら」

ケラケラ笑って立ち上がれば、マルコは俺を盾にしながらアイツの様子を窺っている。一番隊隊長様、俺の肩に置かれた手が震えてんぞ。

「よォ、ナギ」
「あら、サッチ! 久しぶ、り……」

手を挙げて挨拶をすれば、マルコを追いかけ回していた女――ナギもヒラヒラと手を振りながらこっちにやって来た。ただ、途中で雷に打たれたかのような顔で俺の隣を凝視している。

「………その子、」
「んァ? あぁ、こいつはタミってんだ。この間ウチに新しく――」
「ナイス筋肉!!!」
「――はァ?」

俺の言葉を遮ってナギが叫ぶ。ナイス筋肉って、タミが?そう思ってナギの行動を見守ってれば、ナギはタミの更に隣にいたエースに真っ直ぐに走っていって突然二の腕やら腹筋やら肩やらを撫で始めた。

「あぁ……素敵……! 何て素敵な筋肉なの……!!」

あぁ、エースの事だったのか。確かに、ナギが好きそうだよな。エースって。
いきなり身体中撫でられ始めたエースは一瞬で鳥肌を立てながら慌ててナギの手を振り払った。おい、顔赤ェぞ。

「な、何すんだよ!?」
「あぁ、その反応……! 堪らないわ!!」
「サ、サッチ! 助けてくれ……!!」
「サッチ!? サッチに助けを求めるの!? あぁ……サッチ! 貴方こんな若い子まで餌食にしてるのね……!!」
「はァ!!?」

エースが素っ頓狂な声を上げる。まぁ、そうなるよな。俺はもう慣れたけど。

「ヘイヘイ、ナギさん。この子そういうのダメな子なのよ。ちょーっとばかし手加減してやって」
「そういう子を一から……!? 何て美味しい……!! 貴方! 相手はサッチ!? それともマルコ!? マルコなの!?」
「テメェはどうしてそういう……! 気色悪ィ事言ってんじゃねェよい!!!」

俺の後ろに隠れたままのマルコが叫ぶ。耳を押さえて再びナギの方を見れば、ナギはそこから消えていた。

「そんなにサッチに縋っちゃって……この美脚と美尻で誘惑するのね……あぁ、何て形のイイ脚なの……!」

いつの間にか俺らの背後にいたナギの声が届く。マルコの引き攣った悲鳴が聞こえたから、多分ケツだか脚だかを撫でられてるんだろう。

「っ、触んな!!!」

美しいと称えられた脚で蹴りを繰り出すが、ナギはあっさりとそれを避けてまたエースにくっついていた。さすが、腐っても赤髪海賊団の幹部。

「諦めろって、ナギはもう手遅れだ」

諭すようにマルコに言えば、マルコは肩で息をしながら赤髪の方を睨み付けて叫んだ。

「ベックマン!! とっととコイツをどっかにやれよい!!!」
「酷い!! ベックに言いつけるなんて……!!」

途端に慌てるナギ。これもお約束。ベックマンがため息混じりに立ち上がってこっちにやって来ると、逃げようとするナギの首根っこを掴んで拳骨を一つ落とした。

「迷惑をかけたな」
「まったくだよい!!」

額の汗を拭いながらマルコが叫ぶと、ベックマンはナギの首根っこを掴んだままズルズルと引きずって赤髪達の所に戻って行った。やたらと喚くナギにピタリと立ち止まったベックマンはナギに何かを囁くと再び歩き出す。

「ごめん!! 大人しくするから……!! だから私の宝だけは……!!」

必死にベックマンに縋り付くナギを見て、さっきのタミとロナンが浮かんだ。あれ、これデジャヴュ?

「怖い……! 何あの女、怖い……!!」

エースがブツブツ言いながら必死に腕を擦ってるのが聞こえてそっちを見ると、タミが「よしよし、ナイス筋肉」って言いながら、宥めるフリをして背中を撫で回していた。

取り敢えず、何か腹が立ったから手刀を落としておいた。