07


ERROR、ホントにごめん」

項垂れながら謝罪の言葉を口にすると、ERRORは「気にしないで、アタシもムカついたから」って笑い飛ばしてくれた。ERRORが優しいのは知ってるけど、さすがにこれは怒っても良いと思うんだ。私なら怒ると思うし。
私らの前には、武器を持った男達がたーくさん。因みに、私もERRORも縄で縛られてて身動き取れません。

話は、モビーディック号が新しい島に着いた所まで遡る。たまには女だけで買い物に行こうってなって、私とERRORはリサを誘いに食堂へ向かった。けど、食材の買出しがあるから先に二人で街に行ってて、って言われて、私とERRORは二人で街へ向かった。服屋や雑貨屋を梯子したり、アイスを買って食べたり。たまには良いよね、と私達は海賊である事を忘れて楽しんでいた。

楽しかった買い物は突然、ある海賊の一言で終わった。島に着いた時に、他の港に海賊船が停泊してるから気を付けろってマルコさんに言われてたけど、私らはすっかり忘れていた。その海賊達は自分達が強いと思ってるらしくて、街を闊歩しながら白ひげ海賊団の悪口を言っていた。そういうのは聞き流せってサッチさんに言われてたけど、やっぱり良い気分ではなくて。

「白ひげ海賊団なんて、人数が多いだけの腰抜けの集まりだろ」

堪えきれなくなったのは私の方で、ERRORが止める間もなくその海賊達に怒鳴り返していた。

「オヤジ様達をバカにするな!!!」

その後は、まぁ……あっという間にそいつの仲間達に囲まれまして。ERRORが全員倒しちゃおうとしたんだけど、何と言うか……あの……足手纏いがいやがりまして。つまり私なんですが……。

マルコ隊長との約束は『三ヶ月で強くなれなかったら船を降りる』。その三ヶ月まであと半月も無い。それなのに、私は殆ど強くなってない。そりゃ、基礎体力は上がったよ?毎日毎日サッチさんとかイゾウさんとかにメチャメチャ鍛えられたもん。けど……それだけ。戦えるレベルになんてなってない。力だって弱い。ERRORが訓練してるのを見た事あるけど、私とは比べ物にならないくらい強い。ERRORは「アタシは時間かけて鍛えたから」って言ってたけど……私にはその時間が無い。

あと半月で、皆とサヨナラかぁ……。そう思ったらちょっとだけ鼻の奥がツンとした。必死に涙を堪えて目の前の海賊達を睨む。私らを縛り上げて人質にしたこいつらは白ひげ海賊団を潰そうと企んでるらしい。時々ニヤニヤしながらこっちを見てくるのが気持ち悪い。女だからって舐めんなって言いたいけど、どう考えても私が悪いから何も言えない。これ以上ERRORに迷惑かけられない。

「大丈夫だよ、助けに来てくれるから」

そう言ってERRORは笑うけど、不安は拭えない。あぁ、もう。私のバカ。バカバカバカ。何も出来ないくせに喧嘩吹っ掛けて足手纏いになって捕まってERRORを危険に晒すって……最悪じゃん!最悪じゃん!!ホント、役立たずだ……!!

「――ねぇ、お兄さん達」

近くにいる海賊達に声をかけると、そいつらは武器を手にしたままバカみたいな嗤いを浮かべて私を振り返った。

「………私、が……人質になるからさ、この子逃がしてあげてよ」
「はぁ? 何言ってんのタミ!」
「だって私の所為だし……」
「アタシは嫌。タミ置いて一人で逃げるくらいなら一緒にここにいる」
「でも……!」
「どっちも逃がさねぇよ! それに、こっちの嬢ちゃんの方が可愛い面してんじゃねぇか。高く売れるって分かってんのに逃がす訳ねぇだろ?」

畜生、平凡過ぎる自分の顔が憎い……!ERRORの可愛さが恨めしい……!いや、違った。違う違う。違くないけど。リサも美人だもんなぁ、遺伝って羨ましい。羨ましいぞこんちくしょー!

「安心しろよ。お前ら二人共たっぷり可愛がってから売り飛ばしてやるからよ」
「安心出来るか! バカか!! 顔と同じくらい頭おかしいんじゃないの!?」

思わず叫んだ私に向けられる殺意。うわぉ、私のバカ!!

「もう少し先にしようと思ってたが、そんなに可愛がって欲しいってんなら今すぐにでも――」

船の外から聞こえた大きな音で海賊の台詞が掻き消された。え、何?海賊達に動揺が走って一斉に振り返る。

何とか身を捩って目を凝らすと、誰かが船に向かって歩いて来るのが見えた。

「――え、リサ!?」

他に誰かいないかとキョロキョロ見回してみるけど、やっぱりリサ一人しかいない。え、ちょっと待って!まずくない?やばくない?人質増えちゃう……!
海賊達は一人でやって来たリサを見て気持ち悪い笑みを浮かべていた。まぁ、そりゃそうだよね。美人な姉ちゃんが一人でやって来たらテンション上がるよね。リサ逃げてーーっ!!

「よぉ、姉ちゃん。何の用だ?」
「俺らと遊びにでも来たのか?」
「私の家族がここにいるはずなんだけれど」
「家族? 何だよ、もしかして姉ちゃんも白ひげ海賊団か?」
「ギャハハハ! 弱虫の寄せ集めでも女のレベルだけは高ぇな!」
「姉ちゃん、あんな船止めて、俺らの船に乗らねぇか? 俺らの方が可愛がってやるぜ」

丸腰でやって来たリサは嫌悪感しか抱けない男達の声を一切合切無視して私達の所までやって来た。縛られている私とERRORを見て困ったように笑ってる。

「しょうがない子達ね」
「ごめん、捕まっちゃった」

軽い調子で謝るERRORはこの状況を最悪と思ってないみたいだ。どうして?結構ピンチだよね?

「タミちゃんも。街の人から聞いたよ。こういう人達なんて腐る程いるんだから放っておいて良いんだからね」
「ごめんなさい……」
「でも、ありがとう。きっと、オヤジさん達も嬉しいと思ってるよ」
「あの……リサ、オヤジ様達は……」
「皆は船で待ってるよ。私一人で十分だからってお願いして来させてもらっちゃった」

大丈夫って……私の不安そうな顔に気付いたのか、リサは私の頭を優しく撫でて微笑んだ。

「大丈夫だから、ね?」
「リサ、でも――」
「おうおう、姉ちゃん!」

私達の会話を遮る海賊達。まぁ、当然だよね。リサはゆっくりと振り返って海賊達にニッコリ笑って一言。

「黙ってください、吐き気がするので」

一瞬の静寂。次の瞬間には怒り狂った海賊達がリサに向かって武器を振り上げた。見ていられなくて思わず目を瞑ると、銃声が何発かと、剣で斬り付ける音が聞こえた。それから、何かが倒れた音。音が止んだと思って目を開けると、リサはまだそこに立っていた。その足元には数人の男達が転がっていて、頭が撃ち抜かれていたり……首を刎ねられていたり……。

「っ、ぁ……」

初めて見る死体と、その中で立っているリサ。リサが殺した。そう判断した瞬間、恐怖が襲った。どうして。何故。答えは簡単だった。だって、リサは海賊なのだから。

「――タミちゃん」
「っ、は、い……!」

突然名を呼ばれた私は大きく身体を震わせながらリサを見た。リサは海賊達と向き合ったまま静かに言った。

「目を、閉じちゃダメ」
「リサ……」
「あの船にいたいのなら、閉じちゃダメ。貴方が選んだんだから、逃げないで。覚悟を決めなさい」
「覚悟、」

海賊達がリサに斬りかかる。リサは僅かな動きでそれを避けると、海賊のこめかみに銃を向けて躊躇う事なく引鉄を引く。一瞬の躊躇すらない。絶命して倒れる海賊を見て私は再び吐き気に襲われた。けど、目を閉じる事はしなかった。
私は、甘く見ていたのだ。爺ちゃんと父さんの話を鵜呑みにして、白ひげという男に心酔して。強引に船に乗り込んで、戦えるようになる為に必死に訓練して。けど、今まで敵襲が無かったから気付いていなかった。

海賊なんだ。ERRORもリサもサッチさんもマルコさんもエース君も。こうしていとも簡単に他人の生命を奪えるんだ。私は、出来るの?同じ事が出来るの?

あっという間に半分以上を倒してしまったリサが私達の所にやって来て縄を切ってくれた。自由になった私に差し出される銃。顔を上げると、いつも笑ってるリサの真剣な表情。

「殺さずに済むのならそれに越した事は無いけど」
「リサ……」
「貴方は自分から海賊になったんでしょう? 家族の為に他人を殺す覚悟をしなさい。何の覚悟も無しに海賊船にはいられないよ」

ゆっくりと受け取った銃は、今まで訓練で使っていた銃と何ら変わらないものなのに、とても重く感じた。大きく深呼吸をして顔を上げると、リサの優しく微笑む顔があった。その後ろではERRORが海賊達と戦っている。

「リサ、私――」
「何も言わなくて良いよ。言葉なんて要らない。それに、強要はしないよ。タミちゃんが決めれば良いんだから」

もう一度銃を見下ろし、グっと握る。ゆっくりと銃を上げて、私達を護って戦っているERRORに襲いかかる海賊に照準を合わせた。

ERROR、伏せて!」

私の声に合わせてERRORがその場に身を屈める。銃口の先にいる海賊目掛けて引鉄を引くと、大きな音が鳴り響いて腕がジンジン痺れた。反動に耐え切れずに後ろによろめきながら前を見ると、銃弾を頭に受けて倒れていく海賊がスローモーションで見えた。全ての音が無くなったかのような感覚と、手に残る感触。知らず呼吸は荒くなってて、涙が溢れた。

「はっ、はっ、」

浅い呼吸を何度も何度も繰り返しながら涙で滲んだ目でERRORとリサが海賊達を倒していくのを見つめた。最後の一人を斬り倒して、二人が私に歩み寄ってくる。ERRORが笑いながら私に手を差し伸べた。まだ震えてる手を伸ばしてERRORの手を掴むと、ERRORはいつもと変わらない笑顔を私に向けてくれた。

「助けてくれてありがとう」

ERRORの言葉は私の中にスッと浸透していって、呼吸が落ち着いてくるのが自分でも分かった。袖で涙を拭うと、血で濡れた甲板に沢山の海賊達が倒れていた。私は、生きてる。ERRORも、リサも、生きてる。

「帰ろう、私達の家に」

リサが手を差し伸べてきたから、私は銃を放り投げてその手を取る。私を真ん中にして二人と手を繋ぐと、私達は船へと戻って行った。船までの道のりは、さっきまでとは違って見えた。

「リサ、ERROR
「ん?」
「何?」
「――ありがとう、助けてくれて。私、もっと強くなるから。二人を護れるくらい、強くなるから」
「うん! 一緒に強くなろうね!」
「楽しみにしてる」

それから、私達は声を上げて笑い出した。何でか分からないけど、笑いが止まらなかった。繋いでるリサとERRORの手を強く握って、走り出した。

船に戻ると、皆が甲板で待っててくれた。大丈夫か、怪我はないか。皆が口々にそう言ってくれるのが嬉しくて、胸が温かくて、また笑った。

「心配かけやがって」
「オヤジ様、ごめんなさい」
「他に何か言う事はねぇのか?」

オヤジ様を見上げると、オヤジ様はいつもみたいにニヤリと口端を上げて笑っていた。

「――ただいま!!」

声を張り上げてそう言えば、皆が「おかえり」って笑ってくれた。オヤジ様の大きな手が私の頭に乗せられ、上から「よく帰ってきた」って声が降ってくる。

「グラララ! 新しい娘だ、仲良くしてやれ!!」
「そう言えば私、娘って言われた事なかった!」
「今更かよ!」
「オヤジ様! 私、強くなってオヤジ様の役に立つ!! 家族を護れるように頑張るから!!」
「グラララ」

笑って頭を撫でてくれるオヤジ様に笑いかけて、リサとERRORに向かって走り出した。二人の所にはマルコさんもサッチさんもエース君もいて、皆が笑顔で迎えてくれた。マルコさんだけは仕方無い、って感じだったけど。

「よろしくな、タミ!」
「よろしくー!!」
「じゃ、お前たった今から一番隊移動な」
「え!? ヤダ!」
「マルコが鍛えてくれるってよ」
「ビシビシ鍛えてやるから覚悟しろい」
「いやああぁぁぁぁっ!!!」

爺ちゃん、婆ちゃん、父さん、母さん。私は元気でやってます。
家族が増えました。