03


「リサ?」

リサとERRORが乗船してから初めて上陸した島は秋島だった。エースは船番でERRORはそれに付き合って一緒に船にいる。今回のログは半日で溜まるから、自由時間はそんなに長くない。船に残ってる奴らだって多い。
買い出しのクジを引いた俺は、隊の奴らと一緒にリストを手にしながら買い出しを進めていた。最後の一つを買い終えて船へ戻ろうとしていると、向こうの路地にリサらしき姿が見えた。後は船に積み込むだけだが、隊長である俺がそれを放棄する訳にはいかねぇ。

「とっとと積み込めよい!」

タラタラしてんじゃねぇと喝を入れて積み込みを完了させると、「残り時間は自由行動。出航までに戻って来いよい。解散」と早口で告げて街へ戻った。リサを探して店が建ち並ぶ通りを歩いていると、少し先の服屋の前でディスプレイを見てるリサを見つけた。

「リサ!」
「マルコさん?」

驚いた顔で「どうしたんですか?」と首を傾げるリサに、そう言えば何の用事も無かったのだと思い当たって言葉に詰まった。

「あー……いや、」
「買い出しは終わったんですか?」
「あぁ、さっき終わったよい。船に帰る時にリサがいるのが見えたんで……あー、一人で買い物かい?」
「はい、次の島は冬島だって聞いたのでコート買っておこうかなと」
「あぁ、リサ達の島は春島だったから持ってねぇのかい」
「私は昔のが残ってるんですけど、ERRORのは小さいから買っておこうかと思って」
「そうかい。じゃ、行くか」
「え?」
「入るんだろい?」

目を丸くしてるリサに問えば、「そうですけど……」とぎこちない返事。

「でも、マルコさんに付き合わせてしまうのは……」
「暇を持て余してるから、付き合わせてくれると助かるんだがねい」
「良いんですか? 他の人達は酒場に行ってるみたいですよ?」
「酒なんざ、いつでも呑めるよい。それとも、迷惑かい?」
「そんな事……! じゃあ……お願いします」

そう言って柔らかく笑うリサに自然と浮かんだ笑みで返して店の中に入った。ERRORに似合うものを必死に選んでるリサを見てると、やはり母親なんだと思わざるを得ない。どんなに幼く見えても、ERRORの事を見目だけは歳相応で、俺らを見つめるオヤジのそれと似ている。

「うーん、白と黒、どっちが良いと思います?」
「その二色から選ぶのかい? ERRORには明るい色も似合うと思うんだがねい」
「私もそう思うんですけど、ERRORが明るい色は子供っぽく見えるから嫌だって。Tシャツならどんな色でも良いけど、上着は白か黒かだって聞かないんですよ」
「そんなモンかねぇ。リサもそうだったのかい?」
「私ですか? うーん……あんまり……気にしてなかった、かなぁ……着れれば良いと思ってたし……」

それはそれでどうかとも思うが、余りこだわらない方なのだと言われれば、確かにリサはそういうのを気にしないようにも見える。その分、ERRORを飾る事を楽しんでいそうだ。

「『お母さん』だねい」
「ふふ、お母さんですから」

再び真剣な顔でERRORのコートを選んでいるリサを見つめている自分が、いつもと違う顔をしてるであろう事は容易に想像できた。多分、サッチやエースが見たら驚いて、それからバカにしたように笑うんだろう。まぁ、その時は容赦なく蹴り返してやるが。

「これとこれ、どっちが良いと思いますか?」

そう言って振り返ったリサの右手には白いコート、左手には形が同じの黒いコート。

「黒も悪くねぇが、ERRORには白が良いんじゃねぇかい?」
「じゃあ、白にしますね」
「は?」
「はい?」

首を傾げて見上げてくるリサ。いや、「はい?」じゃなくて……。

「良いのかい?」
「何がですか?」
「俺の意見よりリサが選んだ方が……」
「初めからマルコさんに選んでもらうつもりでしたから。それに、何着たってERRORは可愛いから大丈夫です」

サラッと親バカ発言をするリサ。けど、俺が選んだ方を買うって決めてたって言ってもらえるのは、正直かなり嬉しい。俺の事を信用してくれてるって事なのだから。緩みそうになる口元を手で覆って、ERRORの服を物色しているリサを追う。店を出た俺の手には大きな袋が二つ。中身は全部ERRORの服だ。

「すみません、持たせちゃって……」
「構わねぇよい。けど、ERRORの服だけで良かったのかい?」
「え?」
「リサ、自分の服買ってねぇだろい」
「あぁ……私は良いんです。持って来た服だけで足りてますから」

それはERRORにも言える事なのだろうが、リサの親バカが発動してしまったのだから仕方がない。ERRORが着てる姿を想像して可愛いと思えばつい買ってしまうのだと苦笑していたのはほんの十数分前の事だ。

「他に寄りたい所はあるかい?」
「そうですねぇ……あ、マルコさんも何か買いませんか?」
「俺?」
「はい。買い物に付き合ってくれたお礼がしたいんです」
「礼なんていらねぇよい。俺が勝手に付いてきただけだい」
「でも……」

それだと気が済まないと目で訴えてくるリサ。欲しいものなんざ一つしかねぇが、それをまだ口にするつもりはねぇ。今口にした所で玉砕する事くらい分かる。

けど、一つだけ。望んでも良いのだとしたら。

「――じゃあ、一つだけ良いかい?」
「はい! 何でもどうぞ!」
「俺が選んだ服、着てくれるかい?」
「え? 私が着るんですか?」
「駄目かい?」

きょとんと目を丸くしていたリサが柔らかく笑う。

「いいえ、じゃあ……お願いします」
「じゃ、ちっとばかし待っててくれ」

さっき出たばかりの店に戻って、スタスタと奥へ進んでいく。リサがERRORの服を選んでた時にふと目に入ったそれを手に取ってレジへと向かった。五分もかからずに出てきた俺にリサが驚いた顔をする。

「え、もう買ったんですか?」
「あぁ」

新しい袋を見せるとリサが益々驚いた顔をする。それから、俺に向けて手を伸ばしてきた。

「じゃあ、それ私が持ちます」
「? 別に重くねぇが――」
「マルコさんからのプレゼントですから、自分で持ちます」

あぁ、本当に。そんな顔で笑わないでくれ。嬉しそうに見えるのは気の所為かい?少しだけ顔が赤い気がするのは気の所為かい?うっかり自惚れちまいそうなんだが。

「ありがとう、マルコさん」

リサがERRORの服を大量に買っていてくれて助かった。両手が塞がってなかったらちょっとばかしまずかった。

「………帰るかい?」
「はい!」

隣を歩くリサがあんまりにも楽しそうに笑ってるから、船までの道のりがもっと長ければ良いなんてガラじゃねぇ事を考えた。