エース達が帰ってからはまた大忙しだった。エースはまた沢山食べるだろうし、それに加えて大人数がお酒を飲みに来るって言うんだから、前以てお酒の用意をしておかないといけない。リサは多分料理を作る事で手一杯になるだろうしね。アタシ一人でお酒を出すのはいつもの事だけど、大人数で多分沢山飲むだろうから出すのに時間がかかっちゃうだろうし。ちょっとでも出しやすくしておかなきゃ。
「それで終わり?」
「終わった。そっちも料理の仕込み終わった?」
「終わったよ」
「今日は忙しいなぁ」
「まさか全メニュー作る事になるとは思わなかった」
首を左右に傾けてコキコキと骨を鳴らすリサにほんの少しだけ罪悪感。アタシが不用意に「ご馳走する」って言ったのがまずかったよね。
「ごめんね?」
「何が?」
「その……全メニューって、結構赤字になっちゃったんじゃ……」
「あぁ、その事。気にしなくて良いよ、いつも食材買いに行くたびにサービスしてもらってるんだから。それが無くなったと思えば」
確かに、いつも買い物に行くと八百屋のおっちゃんも魚屋のおっちゃんも沢山サービスをしてくれる。リサにデレデレ鼻の下を伸ばしてるのを見るのは何となく嫌だけど――だって私のお母さんだし――、タダで沢山もらえるのは嬉しい。まぁ、おっちゃん達はデレデレするだけでリサに何かするって訳じゃないしね。妻子持ちだし。リサが上手くかわしてるってのもあるかもだけど。
「何時頃来るのかなぁ」
「遅くなってからじゃない? だって、さっき沢山食べてたでしょう?エース君」
「あんだけの量、何処に入ったんだろうね。ご飯中に寝ちゃうし」
「そうね、いつか窒息しちゃわないかしら。それよりも、ERRORも少し外に出て来たら? 夜も忙しくなるんだし、少し気分転換してきた方が良いよ」
「んー……じゃあちょっと散歩でもして来ようかな」
「さっきの海賊達には気を付けてね。大丈夫だとは思うけど」
「ヘーキヘーキ! 行って来ます!」
「はい、行ってらっしゃい」
エプロンを置いて、リサに手を振って店の外に出た。財布はポケットに入ってるし、何か買って食べようかなぁ、それとも気分転換に服屋でも行って来ようかなぁ。あ、リサに何か買って行ってあげようかな。そんな事を考えながら歩いてると、突然後ろから誰かに肩を掴まれた。
「わっ!」
「ハハッ! そんな驚く事ねーだろ?」
「え、エース?」
振り返るとそこにいたのはオレンジのテンガロンハットを被ったそばかす野郎、もといエース。リーゼントのおじさんとパイナップルのおじさんはいなかった。
「あれ、一人?」
「おう! 何でだ?」
「いや、さっきのおじさん達がいないから」
「あぁ、アイツらは仕事が残ってるっつって船に戻っちまったんだ。ERRORは? 何してんだ?」
「アタシは散歩。夜までヒマが出来たから何しようかなーって考えてたトコ」
「そっか! んじゃ、どっか案内してくれよ!」
「良いけど……でもお金持ってないんでしょ?」
「あ、忘れてた」
「呆れた」
金持ってないのに何処を案内しろって言うんだ。それとも私に奢れってか?これ以上奢れってか?エースは相変わらず能天気に笑ってる。
「それに、今食べたら夜食べれなくなるでしょ? さっきだってあんなに食べたのに……胃がおかしくなったりしないの?」
「そんなヤワじゃねぇって」
「いや、ヤワとかそういう問題じゃないから……あー、まぁ良いや。どうしようかな、取り敢えず歩こっか」
いつまでも立ち止まっててもしょうがない。適当にブラブラ歩きながら、エースと他愛無い話をしてるんだけど、話せば話すほど「本当に海賊?」って言いたくなってしまう。全く海賊らしくない。海賊って、さっき店に来た奴らみたいに暴力的で頭のおかしい奴等でしょ?なのに、エースもさっきのおじさん二人も全然そんな感じがしない。どうして?
「ねぇエース」
「んぁ?」
町の真ん中にある噴水の前のベンチに腰を下ろすとエースも隣に座った。
「エース達って海賊なんでしょ?」
「おう!」
「なのに、さっきの海賊達とは違うんだね」
「さっき? ――あぁ、お前にやられてた奴らか。俺はあんな弱くねぇぞ?」
「そうじゃなくて。海賊ってあんな風に無銭飲食して、ムカついたらすぐに銃ぶっ放す頭のおかしい奴らだと思ってたから」
あれ、でもエースは無銭飲食しようとしてたんだっけ?そしたらあんま変わらないか……?でもエースは銃ぶっ放したりするようには見えないしなぁ。どっちかって言うと普通に走って逃げそう。
「あーゆーのはやんねぇよ、カッコ悪ィだろ?」
「それが海賊じゃないの?」
「バーカ、海賊はこの海で一番自由なんだぞ!」
「だから銃ぶっ放すんでしょ?」
「だからやんねぇって」
少しだけ困ったように笑うエース。あ、その笑い方初めて見た。そんな笑い方も出来るんだ、なんて考えてたら大きな手が私の頭に乗った。
「な、何!?」
そのままぐしゃぐしゃに撫でられる。エースの手は大きくて温かい――というより、ちょっと熱かった。
「町に来る海賊達があんな奴らばっかじゃしょうがねぇよな。俺らだってそりゃ、海賊だから敵がいれば戦うし、必要があれば殺しだって略奪だって」
それが海賊だから。
「けど、無闇やたらに一般人を傷付けたりはしねぇよ。俺らは弱ェ奴らを力で押さえ付けたいんじゃない。自由に生きてぇだけだ」
そう言って笑うエース。その笑みはやっぱり太陽みたいに明るくて、不思議と嫌悪感も恐怖も湧かなかった。
「エース達は変な奴らだね」
「そうか?」
「でも、そっちの方が良いな」
自然とアタシの顔にも笑みが浮かぶ。エースはニカッと笑ってもう一回アタシの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。髪の毛がボサボサになったアタシを見て声を上げて笑うエースに、アタシもつられて笑った。
「つーか、今俺が言った事、さっき店でサッチが言ってただろ」
「サッチって?」
「リーゼントの方」
「あぁ、あの人サッチっていうんだ。コックさんなの?」
「いんや、四番隊の隊長だ。まぁ、飯も作るけどな」
「四番隊? って、隊に分かれてるの? 海賊なのに海軍みたい」
「あんなのと一緒にすんなって」
嫌そうな顔をするエースに、何故か申し訳なさよりも笑いがこみ上げた。
「俺らんトコは人数が多いからしょうがねぇんだよ」
「そんなに多いの?」
ていうか、サッチさんって隊長なんだ。見えないなんて思ったアタシは失礼かなぁ。
「千六百人だ!」
「は!? そんなに!?」
この町と変わらないじゃん!下手したらこっちの方が少ないし!
「各隊百人くらいずつに分かれてて、十六の隊に分かれてんだ。あ、因みに俺も隊長」
「へぇー、十六も……って、は!? エースも隊長!? エースが!?」
「何だよ、そんな驚く事か?」
「見えない! 大丈夫なの!?」
だって、どう見たって問題児じゃん!そう続けたら、エースは唇を尖らせて帽子を目深に被った。あ、拗ねた。やっぱ隊長には向いてないと思うんだけど……。
「そりゃ、確かに俺は書類とか苦手だけどよ、戦闘なら負けねぇよ」
唇を尖らせながら呟くエースに笑いが込み上がる。堪え切れずに声を上げて笑うと、最初は不満そうな顔をしてたエースもつられて笑い出した。
何がそんなにおかしいんだってくらい、私達は笑っていた。