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苛々苛々。
賑わう食堂の片隅、パスタをフォークに絡めながらリサは苛立ち紛れに溜息を零した。
そのたびにレイアが顔を顰めるのだが、ご勘弁願いたい。何せ、その隣では事情を聞いたテレサとナンシーが爆笑しているのだ。苛立ちを収められるはずもない。

「よぉ! やっと起きたのか?」

ニヤニヤと腹立たしい笑みを浮かべながら背を叩いていく兄弟はこれで何人目だろうか。そのたびに反論しようと試みるリサだが、未だ鈍く痛む頭の所為で怒鳴ることも出来やしない。
反論出来ずにいるリサに、やはり噂は本当だったのだと誤った解釈をする兄弟たちはより一層楽しげに笑い去っていく。

「そのうち飽きるわよ」
「他人事だと思って……」
「いやぁ、まさかリサとマルコがねぇ」

ニヤニヤと笑うテレサを睨み付けてやれば、大袈裟に怖がってみせてまた笑い出す。先程からこれの繰り返しだ。

「大体、誰がマルコなんかと……」
「俺だって願い下げだ」

背後から聞こえた声に振り返れば、リサと同じく顰め面のマルコがトレイを手にこちらにやって来た。
テレサが面白がって席を譲れば、マルコは迷うことなくそこに腰を下ろした。リサの正面だ。
あちこちから聞こえる「ひゅーひゅー!」という声と笑い声に口元を引き攣らせながら、リサは目を眇めてマルコを睨み付けた。

「な・ん・で、わざわざここに座んだよ」
「こっち行けって煩ェんだよい」

ギャーギャーと喧しく騒ぎ立てられたマルコは、リサと同じく頭痛に苛まれている真っ最中だ。
少しでも静かな場所へと望んだ結果がこれだと言われてしまえば、リサに返す言葉などない。外野が煩いのは腹立たしいが、ここにいれば他よりは多少は静かだ。

「あーはははははっ!! んむっ!」
「お、おなかっ、苦し――むぐっ!」

すぐ近くで大口を開けて笑う彼女たちには、皿に乗った大きなパイを無理やり詰め込んでやれば良いのだから。
その所為で苦しもうが知ったことではない。他人の不幸を笑う奴など、苦しめばいい。

「ライアは大丈夫だったの?」

比較的静けさを取り戻した席で、レイアがマルコに問いかけた。
嫌そうにレイアを見たマルコは続いて何故かリサを睨み付け、チラリとライアたちのいるテーブルへと視線を向けた。

「もう関係ねぇよい」
「あら、冷たいのね」
「あーんなに仲良しだったのに」

茶化しているのか責めているのか定かではないサティの言葉に、マルコが渋面になる。
何も言い返さない辺り、自分でも自覚はあるのだろうか。

「何だって良いよ、害がなければ」

相変わらずフォークに巻き付いたままのパスタを口に運びかけては皿に戻すを繰り返しながら、リサは頬杖をついた。頭が痛くて食べる気になれない。こんな事なら部屋で寝ていれば良かったと思うが、部屋に残っていたらいたでまた兄弟たちがくだらない噂話をするのだろう。

「ったく……何が楽しいんだか」
「そりゃ、今まであんなに仲悪かった二人が朝帰りなんて意外性抜群だもの」
「リサがライアからマルコを寝取ったんだと」
「「ぶっ!」」

ジーンの言葉にリサとマルコが同時に噴き出す。

有り得ない有り得ない有り得ない。
ふざけんなアイツら頭おかしいブッ殺す。

ブツブツと繰り返す二人にテレサたちが声を上げて笑う。

「で、どうなの? 実際のところ」

そういう可能性はあるの?
ワクワク。ワクワク。テレサ、ナンシーの背後にそんな言葉が見えるのは気の所為だろうか。
期待に目を輝かせてこちらを見る二人に、リサとマルコは図らずも顔を見合わせ、即座に顔を背けた。

「無理だ」
「そりゃこっちの台詞だ」

ふん。同時に鼻を鳴らす二人は、傍から見れば「素直になれない不器用な二人」に見えると気付いていないらしい。

だからだろうか。

こちらを見つめる不穏な視線に気付くことが出来なかったのは。