「な、によ……アレ」
両手に大量の紙袋を抱えたライアは、怒りに声を震わせながら呟いた。
ここ最近のマルコとの間に漂う蟠りを解消しようと思っていたのに、島に着くなり白ひげに用事を言い付けられたマルコはライアの誘いを断って行ってしまった。
それならまだ仕方ない。何しろ、船長直々の命令なのだ、仕方ないと自分に言い聞かせることが出来た。
けれど、あの女――リサが一緒に行くとなれば話は別だ。
どうして! 私じゃダメなの!?
女を連れて行けと言われたのなら、自分を連れて行ってくれれば良いのに。そう詰め寄って、けれど返ってきた答えはライアを納得させるどころか、神経を逆撫でさせ怒りを増長させるものでしかなかった。
”この船で一番強い女を連れてけって言われたんだよい”
一番強ェのはお前じゃねぇ。お前だって分かってんだろい。
そう続けられてしまえば、ライアは口を噤むしかなく、けれど怒りは鎮まってはくれない。
分かっている。あの女に劣ることくらい。
けれど、それを他人に――しかも、よりによってマルコに――指摘されるのは嫌だった。
どうして。恋人なのに。
どうして。あの女の事なんか大嫌いだって言っていたくせに。
ここ最近、自分たちの間に微妙な空気が漂うようになるのとは反対に、マルコとリサの関係は概ね良好になっていることをライアも知っていた。
船中のあちこちでクルーたちが話しているのだ。最近は二人が所構わず喧嘩をおっ始めないでくれるから助かる、と。以前は一触即発の状態だった二人が、ここ最近は笑い合っている姿さえ確認できる。それは二人の悪すぎる関係を案じていたクルーたちにとって喜ぶべきことらしい。
だが、いくらクルーたちにとって喜ばしいことだと言えど、ライアにとってはそうではない。
リサも、リサと常に一緒にいるあの五人も、ライアからしたら敵だ。
家族などと思えるはずがない。嫌いなものは嫌いなのだ。
マルコだけは、味方だと思っていたのに。
今も尚、ライアの視線の先で笑い合うマルコとリサ。
赦せない。どうして。
嫌いだって言っていたくせに。仲が悪かったくせに。
どうして。どうして。どうして!!
「――マルコッ!!!」
腹の底から叫べば、振り返ったマルコがライアを認識して――僅かに顔を顰めた。
どうして。
今までは、隣に立つ女を見た時にそうしていたくせに。
どうして。
恋人は、私なのに。
荷物を持つ手に力が篭る。
ズンズンと荒い足取りでマルコの元へ向かったライアは、その隣で面倒臭そうな顔をするリサをギッと睨み付けた。
「用事があったんじゃないの!?」
どうしてここにいるのよ!
叫ぶライアに、図らずもマルコとリサの溜息が重なる。
それがまるで、二人の親しさを表しているようで。
ギリ、と歯を噛み締めたライアに気付いているのかいないのか、リサは一抜けたと言わんばかりにマルコとライアに背を向けた。
「んじゃ、私は行くわ」
そそくさと逃げるように去っていくリサの背を苦々しい顔で見つめるマルコの視線が憎らしい。まるで、あの女に執着しているみたいではないか。ライアは手に持っていた荷物をマルコに押し付けた。
「持って」
押し付けられたそれを受け取り、短く息を吐いたマルコが何も言わずにそれを手にする。
今までなら、何も言わなくても持ってくれたのに。片手で全部の荷物を持って、もう片方の空いている手でライアの手を握ったり腰に手を回したりしてくれていたのに。
「……どうして触ってくれないの」
「押し付けたくせに何言ってんだよい」
ほら。ライアは心の内で呟いた。
今までなら、そんなこと一度だって言わなかった。
いつから変わってしまったのか、ライアははっきりと覚えている。
メルエル島を出航した辺りからだ。
レイアが元々は貴族のお嬢様だったとか、リサが奴隷だったとか、そんなことはライアにとってはどうだって良いことだ。興味など持てるはずもない。
リサが青雉に捕まったと聞いた時だって、ざまぁみろと心の中で拍手したほどだ。そのまま一生帰って来るな。そのまま無様に死ねとさえ思った。
そんなライアの考えを知ってしまったのだろうか。だから、こんな風になってしまったのだろうか。
徐々にぎこちなくなっていったマルコの態度は、ここ最近ではライアを疎ましく思っているようですらある。
あの女の所為で。
あの女に縁のある島に行かなければ。
あの女が帰って来なければ。あの女が存在しなければ。
全てをリサの所為にして、ライアは眉を吊り上げ醜悪に顔を歪める。
その顔を横目に捉えたマルコが溜息を零したことを知りもしないで。
消えろ。
お前なんか、消えてしまえ。
ライアに呪詛の素質があったのだとしたら、今頃リサはこの世にいなかっただろう。
リサに対するライアの憎しみは、それほどまでに深く果てしないのだから。