04


「大将自ら出向くとはな。何の用だ?」
「海兵が海賊の前に姿を現す理由なんて、一つしかないじゃない」

モビー・ディック号を取り囲むように港に立つ海兵達の真ん前に立つ青雉は、ボリボリと頭を掻いた。港には青雉が、沖には海軍の軍艦が数隻、既にモビー・ディック号を包囲している。

「だが、まぁ……アレだ。今回は特例でな、この船に囚われているとある人物を救出する為に来た訳だ」
「はぁ?」
「誰も捕まえてなんざねぇよ」

クルー達が武器を手にしながら青雉の言葉に否を答える。

「まぁ、お前らは知らないんだろうがな」
「何が言いてぇんだよい」

一歩前に出てマルコが船から青雉を見下ろす。

「不死鳥マルコ、か……この船に、とある貴族の令嬢が乗ってるはずなんだが?」
「貴族の?」
「あらら、やっぱり知らない訳ね。まぁそうだろうな」
「ウチの船にそんな奴はいねぇよい。とっとと消えろい、それとも――」

マルコがニヤリと口端を上げる。クルー達が一斉に武器を構え、海兵達も武器を構えた。両者の間に緊張が走る。

「っ、待って!」

クルー達の間を割って姿を現したレイアがマルコに並ぶ。

「クザン! あの子は何処!?」
「あららら、やーっとお出ましか。エリーネちゃん」
「エリーネ……?」
「レイア、どういう事だよい」
「………私は、もうエリーネじゃない」

マルコの問いを無視してレイアは青雉を睨み付ける。

「エリーネは死んだわ」
「ここにいるのは白ひげ海賊団のレイアだ。間違ってもらっちゃあ困るぜ」

レイアの横に並び、サッチがサーベルを肩に乗せてニヤリと笑う。

「お前、知ってたのかよい」
「まぁな。可愛い妹達の事は何でも知りたいお年頃なんだよ」
「キメェ」
「うっせーな! おい青雉! もう一人の可愛い妹は無事なんだろうな!?」
「――さぁな」
「ンだと!?」

ボリボリと頭を掻き、青雉はコキコキと首を鳴らしてサッチを見上げた。

「俺は捕まえて『持ち主』に返しただけだ」
「――っ、」
「しかし、随分と強くなっちゃってさすがの俺も苦労したぜ。痛みに鈍いってのは困りモンだな」
「クザン……ッ!」
「この野郎……!」
「俺が受けた次の指令は、白ひげ海賊団に囚われたエリーネお嬢様を家に連れ戻す事だ」
「誰が! 私の家はここよ!!」

叫びながらレイアが武器を手に船から飛び降りる。それを皮切りに、船にいた白ひげ海賊団のクルー達は一斉に海軍との戦いに身を投じるのだった。




「ったく……折角の楽しい時間に水差してくれちゃってさ」

足元に倒れる海兵達を見下ろしてテレサが鼻を鳴らす。

「海軍が襲ってきたって事は、何かあったって事よね?」
「リサとレイア、大丈夫かな」

サティ、ナンシーの言葉で四人は顔を見合わせる。

「取り敢えず、一回船に戻るか」
「賛成」

ジーンの言葉に頷き、四人はモビー・ディック号へ向かって走り始めた。けれど、数十メートルも走らない内に物凄い速さで街の北側へ向かう青い鳥を発見した。

「マルコ!!!」

テレサが声を張り上げると、気付いたマルコがすぐに降りてくる。人型に戻ったマルコに四人はすぐに詰め寄った。

「何があったんだ?」
「リサとレイアは無事!?」

ジーンの言葉を掻き消すくらいの大きさで声を上げたナンシーにマルコは顔を顰めた。

「お前らも知ってたのかよい」
「何があったの?」
「リサが捕まった。今、船では青雉と戦ってるよい」
「リサは何処に……!?」
「レイアの家だ。お前らは船に――」
「私達も行く」
「俺一人で十分だよい」

マルコはそう言ったが、四人はそれを無視して北側に向かって走り始めていた。舌打ちを一つ零し、マルコは再び自身の身体を青い炎を纏った鳥へと姿を変えて飛び立った。
数分も経たない内に、五人は門を護る海兵達を倒して貴族達の住まう区域へと突入していた。次々に襲いかかってくる海兵達を薙ぎ払いながら、ジーンがマルコに叫ぶ。

「ここは私達だけで十分だ! リサを頼む!!」

マルコは頷いて更に先を進んだ。リサが捕まっている家がどれかはすぐに分かった。その家の周りだけ異様に海兵の数が多いのだ。二階の窓をぶち破って侵入したマルコは、そこが誰かの部屋である事に気付いた。
アンティーク調の家具が置かれた部屋に生活感は無い。ドレッサーが置いてある事で女性の部屋だと理解したマルコは、壁に掛けられた絵画に気付いて眉を顰めた。

「貴族の令嬢ってのはホントだったようだねい」

煌びやかな装飾品を身に付けて微笑むレイアは、自分の知っているレイアとはまるで別人のようだとマルコは思った。

「じゃあ、アイツは……」

浮かんだ考えに顔を顰め、それが外れている事を願いながらマルコは廊下へ出た。薄暗く広い廊下を進みながら、気配を探るが人の気配はない。どちらにしろ、自分が突入するのを海兵に目撃されているのだ。マルコは大きく息を吸った。

「リサ!!! 何処だよい!!!」

けれど、返事はない。海軍達が家に乗り込んでくる様子がないことを訝しがりながら廊下を進んでいると、突然数メートル先にある扉が開いた。腰を落として身構えていると、現れたのは整った顔立ちの青年だった。レイアと然程歳の変わらないように見える青年は強ばった表情でマルコを見つめ、手招きをした。迷ったのは一瞬で、マルコは青年の部屋へと足を踏み入れた。

「貴方は白ひげ海賊団の方ですよね?」
「あぁ。アンタは……」
「レオンと申します。エリーネ――貴方達の前でその名前を使っているかは分かりませんが――彼女の兄です」
「エリーネ……確か、レイアの事を青雉がそう呼んでやがったな。それで、アンタは……俺らの敵かい?」

じわじわとマルコから放たれる殺気にも似た威圧感に、けれどレオンはしっかりと首を横に振った。

「私が……頼んだんです。家を出たがっていたエリーネに『彼女を連れて行ってくれ』と」
「………リサの事か?」
「彼女の本当の名前は私も知りません。この家にいた頃はイレイサと呼ばれていましたが……彼女は……奴隷として父に買われてこの家にやって来たんです」

あぁ、やはり。自身の考えが当たっていた事に内心舌打ちをしながら、マルコは目の前で悲しげに目を伏せるレオンを見た。

「七年ぶりに会いましたが……彼女はちっとも変わっていなかった。私の命令に背く事すら出来ずに船に戻って行った………けれど、今夜彼女がここにやって来た。ほんの少しでも変わっていた事を嬉しく思いました。それでも……、彼女は父の手に渡ってしまった……」
「アイツは何処だ?」
「おそらく地下室に……一階の父の書斎から行く事が出来ます。部屋に入って左から三番目の本棚にある、赤い本と青い本に挟まれた黒い本がスイッチです。黒い本を押せば地下室への階段が出てきます」
「ありがとよい。アンタはどうすんだい?」
「私は……この部屋を出る訳にはいきません。この家を継ぐのは私しかいませんから――これを」

差し出されたのは煌びやかな装飾がなされた短剣だった。柄の部分に家紋らしき模様が彫ってあった。

「代々、この家に継がれてきたものです。彼女に……渡してください」
「………良いんだな?」

マルコの問いにレオンが重々しく頷く。「そうかい」と呟き、マルコはレオンに背を向けて部屋を出ていった。扉が閉まる間際、聞こえたレオンの言葉にマルコは小さく頷いた。