「島に着いたぞーーー!!」
見張りをしていた船員の大声が船中に響く。船を停泊させると、仕事の無い船員達は一目散に上陸して街へと駆けて行った。
昨夜、甲板で寝てしまったはずなのに朝起きたら自室のベッドにいたのだが、おそらくサッチが運んでくれたのだろうと考えたリサは特に首を傾げる事もなく上陸する準備をしていた。髪を結いながらノックの音に返事をすると、扉が開き既に準備を終えたレイアが入ってくる。
「出来た?」
「あぁ、今終わった。最近は下船してなかったから、結構買うものが増えちまったぜ」
「私も。じゃ、行きましょう?」
部屋を出て甲板へ向かうと、タラップの所にサティ達の姿があった。リサとレイアに気付いて手を挙げるサティに同じように手を挙げて返すと、ナンシーがリサ達の元に駆け寄った。
「一緒に行こ!」
「おー、でも私ら結構買うものあるぞ?」
「なら、荷物持ちは多い方が良いだろ?」
ジーンの言葉にリサとレイアが顔を見合わせて笑う。
「優しい家族で嬉しいぜ」
「ホントにね」
「礼は酒で良いよ」
「あ、私も」
「私もー!」
「勿論、私もな」
「……優しい家族で嬉しいぜ」
「ホントにね」
ニッと笑う四人にリサとレイアは肩を竦めて船を降りた。他愛ない話をしながら街へ向かう。途中、何度か雪に足を取られそうになったリサがその度に雪に向かって悪態をつくものだから、レイア達はその度に声を上げて笑った。
「何買うんだ?」
「洗面用品とか風呂用品とか」
「服も何着か欲しいわ。特にTシャツ」
「あとは靴も。そろそろボロボロだ」
「んじゃ、かさ張らないものから買いに行こっか」
テレサの言葉に頷いて一行は歩きだした。日頃、島に着いても上陸する事のないリサとレイアはいつものように多めに買おうとしていたのだが、店に来て商品を手にしようとした時ジーンに止められた。
「前に進むんだろ? 次の島で買い足せば良いんだから、そんなに買う必要は無いだろ」
「あ、そっか」
「――そうだな、一つで十分だ」
顔を見合わせて苦笑したリサとレイアはそれぞれ自分が使っているものと同じものを一つだけ手に取る。シャンプーなどの風呂用品と洗顔フォームを一つずつ抱えてレジへと向かった。服屋で適当に服を買い足し、ついでだからと下着も買い足していく。ナンシー達も自分の服や下着を買っていた為、結局大荷物になってしまったが、六人は気にせず買い物を続けた。靴を買い終えると、一度船に戻ろうという事になり、六人は船へと向かって歩きだした。
「あー、久々に買ったな」
「リサ達の場合、久々に陸に降りたな、でしょ」
「それもあるわね」
「さ、とっとと荷物置いて酒飲みに行くよー!」
「確か、この街って酒場が二つ三つなかった?」
「一番大きいトコを貸し切りにしてあるってビスタに聞いたぞ」
「んじゃ、別のトコ行くか」
リサの言葉に皆が頷く。どうやら、考える事は同じのようだ。今日の船番はブラメンコ率いる六番隊で、買出しはクリエル率いる十番隊――つまり、マルコが酒場にいる可能性が高いのだ。それはつまりライア達が一緒にいる可能性が高い事を示唆している。
「久々の上陸だ、楽しく飲もうぜ」
「「「「「異議なし」」」」」
船に戻り、取り敢えずという事でリサの部屋に買ったものを置いた六人は再び島へ向かった。
「おーおー、羨ましいぞコンチクショー!俺も飲みてぇ!!」
「悪いな、ブラメンコ。船で飲んでてくれや」
「楽しんで来いよバカヤロー!」
「こうなったら自棄酒だ!」と甲板で騒ぐブラメンコとその隊員達の声を背後に聞きながら、リサ達は街へと戻って行った。
「大丈夫かしら」
「船番が酔っ払って海軍に気付かなかった、なんて事になったりして?」
「今日はオヤジも船にいるんだ、大丈夫だろ」
「それもそうか」と頷くサティ達と共に街で一番小さな酒場へと向かう。途中、すれ違った船員達に貸切の酒場に殆どの奴らが集まってるから来いよと言われたが、丁重にお断りした。
「らっしゃい」
酒場に入ると、そこには数人の悪人面の男達が酒を飲んでいるだけで静かだった。グラスを拭いていたマスターがチラとリサ達を見てすぐにグラスに視線を戻す。
「ここで良いか?」
「うん」
「構わないわ」
「んじゃ、マスター。取り敢えず何かテキトーに食いモンくれよ。あと、私ラム」
「私もラム。ナンシーも?」
「うん!」
「私はビール」
「私もビール」
「私もビールだ」
マスターは無愛想な顔で「あいよ」と返事をするとすぐに酒を注いで持ってきてくれた。
「何に乾杯する?」
ジョッキを手にしてリサが尋ねると、ナンシー、テレサ、サティが口を揃えた。
「「「私達の『現在』に」」」
「私らはいつもそれに乾杯してる」
「素敵ね」
「泣けてくるぜ」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
ジョッキをぶつけ合い、一気に酒を喉に流し込む。何度もおかわりをして、途中で運ばれてきた料理に手を付けながら、六人は楽しく酒を飲み続けていた。
「何か、懐かしいなぁ」
「昔もこうやってよく酒飲んだっけ」
「賞金首捕まえてねー」
「賞金で朝まで飲み明かしてたな」
酒が入り饒舌になったナンシー達が過去を懐かしむと、リサとレイアは同じように微笑んで目を伏せた。
「結構、行き当りばったりな生活だったよな」
「危ない事も沢山あったしね」
「でも、生きてる」
穏やかに笑うジーンがジョッキを掲げた。
「オヤジには感謝してる。私らに家族を与えてくれた」
「けど、オヤジよりも感謝してる人達がいる」
「リサ、レイア」
「こんな私達と一緒にいてくれた。仲間だって言ってくれた」
「「「「リサと、レイアに」」」」
ジョッキを掲げて四人が笑う。リサもレイアも同じようにジョッキを掲げた。
「私らに家族を与えてくれたオヤジと」
「私達のこれからに」
「「「「「「乾杯!!」」」」」」
再びジョッキをぶつけ合い、六人は声を上げて笑った。幸せだと思った。こんな時間がいつまでも続いて欲しいとも思っていた。
けれど、幸せは長く続かない事を、六人は嫌と言うほど知っていた。
「お前ら、白ひげンとこの船員か」
リサ達の他にいた悪人面の客達が立ち上がってリサ達を取り囲む。その手には武器があり、男達は下卑た笑みを浮かべていた。そんな男達に囲まれながらも、リサ達は全く動揺することなく、けれど明らかに不快そうに眉を顰めていた。
「随分と上玉が揃ってんじゃねぇか」
「俺らともっと楽しい事するか?ひひひ」
「あーあ、折角楽しく飲んでたってのにさ」
「邪魔しないでくれる? 消えて」
ナンシーとサティが酒を飲み干して立ち上がる。リサ達はそんな二人に薄っすらと笑みを浮かべながら酒を呷り料理に手を伸ばした。
「食後の運動もしなきゃね」
「食中の間違いよ、ナンシー」
「ハッ、随分余裕みてぇだが、俺らの事を知らねぇ訳じゃねぇだろ? 俺らはレビン海賊団だ!」
「知ってるか?」
「知らね」
ジーンの問いにリサが首を傾げながら答える。男達の顔が醜悪に歪められ、明らかな殺意を向けられた。それでも六人は怯む事なく笑っている。
「なーんでも良いからさ、とっととかかってきなよ」
「ストップ、ナンシー。店の中で暴れちゃ駄目だって……まぁ、でもこの程度なら暴れる必要もないか」
「適当なトコに放り投げて来てね、店の前に倒れてちゃ邪魔だから」
テレサとレイアの言葉で怒りが頂点に達した男達が一斉にリサ達に手にある武器を振り下ろす。けれど、リサ達はのんびりとした様子で酒を飲んでいた。結局店の中で暴れるのか、とマスターが僅かに顔を顰めた次の瞬間、男達はその場に倒れていた。
「なーんだ、弱いじゃん」
「運動にならなかったわね」
「とっとと捨てて来てー」
「良いよ、私が捨ててくる」
レイアが立ち上がり男達の襟首を掴んで店の外へ向かう。リサも酒を飲み干して立ち上がった。
「しゃーねぇな。レイア一人じゃ何往復もしなきゃだろ」
「あーあ、もっと飲みたかったなぁ」
「ま、十分楽しんだか」
テレサとジーンも立ち上がり、それぞれが男達の襟首を掴む。
「騒がせて悪かったな。ほいよ、代金」
「まいど」
顔色一つ変える事なく金を受け取るマスターに見送られ、リサ達は海賊達を店の外へと引きずっていき、適当な所で海賊達を放った六人は船に戻るか次の酒場に行くかで悩んだ。
「どうする?」
「んー、飲み足りない気はする」
「もう一つの酒場でも行く?」
「折角だし、昔みたいに朝まで飲み明かそっか」
レイアの言葉に頷き、六人はもう一つの酒場へと向かった。夜も更け、そういう商売の女達が船員達と歩いているのをちょくちょく目撃した。そういう時は声をかけない方が良いというのが海賊になってから学んだ事で、六人は気付かないフリをして他愛ない話をしながらもう一つの酒場へと向かうのだった。