「――っ、」
襲いくる目眩にルーシーは足を止めた。
壁に手をついて強く目を瞑れば、ぐわんぐわんと頭の中が掻き混ぜられているような感覚が襲う。
何度も何度も深呼吸を繰り返せば、それは徐々に治まっていった。
大きく息を吐き出して、こみ上げる涙を飲み下す。
だめだ。泣いてはいけない。
自分に言い聞かせて、重い足を動かして一歩を踏み出した。
”従え。助けたいのなら”
闇の帝王はそう言って嗤った。
嗤って、嗤って、嗤って、全てを奪った。
肌を滑る手の感触を思い出し、吐き気を覚えてトイレへ駆け込む。
吐いて、吐いて、吐いて、それでも吐き気は消えない。こびりついて消えないのだ。
”ごめんね、ごめんね……っ!”
昨日の母の泣き顔が甦り、ぐっと歯を食い縛る。
泣くな。もう、決めたことなのだから。
決めたのは、自分なのだから。
それでも、あぁ。それでも。
数分前に見たスネイプの傷ついた顔が消えない。
ずっと一緒にいたいと思っていた。
卒業しても、ずっと一緒にいたいと思っていた。
共に生きていけたら、と。
ずっと、愛してくれたらと。
ずっと、愛し続けると。
馬鹿だった。何も考えていなかった。
知っていたじゃないか。
いつかこうなるかもしれない。知っていたはずだ。
怖くて、怖くて、怖くて。いつだって一人で泣いていたじゃないか。
それでも、彼が現れて。傍にいてくれて。
好きだと言ってくれて。護ると言ってくれた。
そんな彼と離れるなんて絶対に嫌だ。
それでも、仕方ないじゃないか。何度だって自分に言い聞かせる。
彼がこの世から消えてしまうくらいなら。アイツに殺されてしまうくらいなら。
「っ、ごめ……」
溢れ出る涙を拭うことすらせず、ただただ泣いた。
必死に声を押し殺して、ひたすらに。
幸せだった記憶が浮かんでは、男の哄笑と共にひび割れて消えていく。
消えて、消えて、消えて消えて消えて。
そのまま自分も消えてしまえれば良いのに。