「現実にしたくはあるまい?」
虚ろな目から零れ落ちる透明な雫を拭いながら、男はそっと耳元に囁く。
今も尚、幻を見ているだろう女に向けて、甘く、優しく。
「助けたくはないか?」
ぴくり。
虚ろな顔をした女の頭が揺れる。
「助ける方法は、ただ一つ」
分かるな?
ぽろぽろと次々に溢れて落ちる涙などお構いなしに頬に触れると、女の口から吐息が漏れた。
止めどなく溢れる涙が男の手を濡らしていく。
男は嘲笑った。
こんなもの、何の意味も持たないというのに。
涙など、流すことに何の意味があるというのか。
「ルーシー・カトレット」
捉えた顎を引き寄せ、闇の帝王は言い放つ。
「俺様のものになれ」
救いたいのならば。
恋人を。家族を。友人を。
救いたいのならば、道は一つしかない。
「た、す、けて」
お願い、お願いします。
何でもするから。助けてください。
どうか、どうか、どうか。
恐怖に囚われ失われていた声が、必死に助けてくれと言葉を紡ぐ。
どうか、どうか、どうか。
助けてください。助けてください。
何でもします。言うとおりにします。
だから、どうか。
懇願する女に、闇の帝王は哄笑する。
漸く。
漸く。
手に入れたぞ。
「運命と呼ばず、何と呼ぶのか」
手に入れる運命だった。
どんなに抗ったところで、それに変わりはない。
そうだろう、シエラ?
闇の帝王は嗤った。
嗤って、嗤って、嗤って。
全てを奪い尽くした。