ホグワーツ特急に乗り込んで一時間。ルーシーはこみ上げる溜息を堪え切れずに勢いよく吐き出した。
もうバレてしまったのだから。そう開き直って一緒のコンパートメントに乗り込んだ四人だが、平和に過ごせたのは最初の一時間くらいだった。
「おいおい、何でスリザリンの奴らがここにいんだよ」
戸を開け放ってズカズカと入って来たシリウスがさも嫌そうに吐き捨てる。
ルーシーたちは揃って顔を顰めた。
「いいでしょ、別に」
「スリザリンなんかと一緒にいられっか。とっとと出てけ」
「誰も貴様を招いた覚えなどないが? ブラック」
とっとと出て行け。言外にそう吐き捨てたスネイプを鼻で笑い、シリウスはコンパートメントの外を指した。
「良いのか? あっちでお前のオトモダチが探してたぜ?」
「………」
「グリフィンドールの奴らと一緒にいたなんて知れたら、面倒なことになるんじゃねぇのか?」
嘲笑うシリウスを睨み付けていると、何かに服を掴まれた。レイだ。
「セブルス……」
不安げに目を揺らすレイは、ホグワーツに着いてからのことを考えているのだろう。
確かにいくらか嫌味を言われるかもしれないが、夏休みに入る前にも友人たちからルーシーとの関係を問い質されていたスネイプにしてみれば、今更のように思ってしまう。
「行ってきなよ」
どうしたものかと思案していたスネイプの背を押したのは、他でもないルーシーだった。
「セヴィだって友達に会いたいでしょ?」
たとえ闇の魔術を平気で使うような奴らでも、スネイプにとっては何年も共に過ごしてきた友人だ。リリーとの友人関係を否定されようが、ルーシーとの関係を否定されようが、そう簡単に変えられることでもない。
「………悪い」
別に、シリウスに追い出されるわけではない。
ルーシーたちと共にいることで白い目で見られることを厭ったわけでもない。
ただ、久しぶりに会う友人たちに会いにいくだけだ。
「んーん、また後でね」
「またね」
笑顔で見送ってくれるルーシーとリリーに僅かばかり表情を和らげて、スネイプはレイと共にコンパートメントを出て行った。勿論、その際にシリウスやジェームズたちを睨み付けることは忘れずに。
「ケッ、清々するぜ」
「で、何で隣に座るわけ?」
どかりと隣に腰を下ろしたシリウスをじとりと睨み付けるが、シリウスは意に介した様子もなくただ笑う。向かいではジェームズがリリーの隣に強引に座って文句を言われていた。
「別れちまえよ、あんな奴」
そんで俺と付き合おうぜ。
ニヤリと笑うシリウスを睨み付けて、溜息を一つ零したルーシーは唇を尖らせて窓の方へと顔を背ける。
ムッと顔を顰めたシリウスの顔が窓ガラスに映っているのが見えたが、知らんふりをして目を閉じた。
「あんな奴のどこが良いんだか」
鼻を鳴らしたシリウスを宥めながら、リーマスが隣に腰を下ろす。ジェームズの隣に小さく収まったピーターが必死に寝癖を直そうとしているのが窓の中に見えた。
「あぁ、もう! 嫌だって言ってるでしょう!?」
眉を吊り上げたリリーがジェームズの手を振り払って立ち上がった。
「こんなとこにいたくないわ! ルーシー! 行きましょう!」
「え? あ、うん――うわっ!」
「お前はここ」
「ちょ、」
「行きたいなら一人で行けよ、エヴァンズ」
ルーシーの腕を強く掴んで笑うシリウスを睨み付けるリリーの顔がとんでもないことになっている。
顔を引き攣らせたルーシーは、自分の腕を掴んで放さないシリウスをじとりと睨み付けた。
「私、ずっとリリーと一緒だったんだけど?」
「出て行きたいって言ってるのはエヴァンズだけだろ」
「リリーが行くなら私も行くよ」
「お前はここ。で、エヴァンズはどうするんだ?」
薄い笑みを浮かべるシリウスをギッと睨み付けたリリーの肩にジェームズの手が置かれる。
宥めながらその場に留まらせようとするのは、この場を治めたいわけではなくただ単にリリーと一緒にいたいだけなのだろう。
「触らないでちょうだい! ルーシーが残るなら残るわよ。けど、ルーシーの隣は私よ!」
「何だよ、もう座ってんだから――」
「ポッターの隣なんて冗談じゃないわ!!」
ヒステリックに叫ぶリリーの横でジェームズが肩を落とす。
そんな親友を哀れみの目で見やったシリウスは、ため息を一つ零すと立ち上がってリリーと入れ替わった。
「シリウス、僕は君が隣でも嬉しくも何ともないよ」
「奇遇だな、俺も同意見だ」
シリウス、ジェームズ、ピーター。三人が並んで座るとその席は少々狭い。見た目にも狭苦しいのだから、三人が感じるそれは更に上なのだろう。
リリーとルーシーはどちらかというと細身だし、そこにリーマスが加わり三人で丁度よく収まっている。
「それで、リーマス。何で君がエヴァンズの隣に座ってるんだ?」
「僕は初めからここに座ってたよ。後から彼女が来たんだ」
「絶対に変わらないで頂戴。ポッターが隣に来るより貴方がいてくれた方が何倍もマシよ」
「エヴァンズ、僕は君に何かしたかい?」
仮にもリリーに好意を寄せているのだ。もう少しくらい優しい対応を望んだとしても罰は当たるまい。
そう訴えるジェームズだが、入学当初から既に色々とリリーの地雷を踏みまくっている彼なのだから、その望みが叶う可能性は限りなく低い。
「自分の胸に手を当てて考えてみるのね。逆に教えて欲しいくらいだわ、どうしたら貴方に好意を抱けるのか」
リリーからすれば、何故ジェームズがこんなにも自分に執着するのかが分からない。
好意を抱くには互いの第一印象が最悪すぎたのだと思うし、その後の対応も決して良かったとは言えない。そんな相手に好きだと言い続けるジェームズの考えは理解できない。
最初は罰ゲームか何かだったのかもしれない。余りにも酷い対応を取るから、躍起になっているだけなのだろう――そう結論を出してリリーは再びジェームズを睨みつけた。その鋭い視線にすら、ジェームズは嬉しそうにするのだけれど。
「リーマス、お菓子いる?」
「ありがとう」
ため息を零すリリーに苦笑しながら、リリーの向こうに座るリーマスへお菓子を渡す。
新学期だというのに顔色が悪いリーマスは、それでも心配させまいといつものように微笑んでいた。
「具合悪いの?」
「大丈夫、ちょっと寝不足なだけだから」
リーマスがにっこりと笑う。まるで、それ以上聞くなとでも言うように。
「――無理しないでね」
時折見せるどこか諦めたような笑みや、定期的に姿を消すこと。何か抱えているだろうことは、五年間も共に過ごしてきたルーシーには分かるというのに。ジェームズたちだって気付いているはずだ。もしかしたら自分が知らないだけで、彼らは教えてもらったのかもしれないけれど。
助けられることがあるのなら、いくらだって協力する。リーマスは友達なのだから。
「ありがとう」
ルーシーの気持ちを分かっているのかいないのか。
リーマスはまたいつものように優しく微笑んだ。