07


広間の入り口でルーシーと別れたカーラは、覚束ない足取りでスリザリンのテーブルへと向かった。正直、何も食べたくない。走り過ぎて足は棒のようだし、脇腹も痛い。あんなに走ったのは生まれて初めてだ。ちっとも嬉しくないが。

「どこに行ってたんだ?」

テーブルには既にドラコの姿があった。クラッブとゴイルの向かいに座るドラコは、ちゃんとカーラの席を取っておいたくれたらしい。心優しい弟に表情を和らげたカーラは、けれどその問いかけに対する答えを持っていなかった。言えるはずがない、グリフィンドール生に連れ回されて悪戯に付き合わされただなんて。
曖昧に微笑んだカーラに首を傾げたドラコは、それでもそれ以上何も聞いてはこなかった。ありがたく思いながら席に着き、乾いた喉を潤す為に一気に水を飲み干したカーラはチラリとグリフィンドールのテーブルへ視線を向けた。ついさっきまで散々引っ張り回してくださった彼女は、上級生と何やら話し込んでいる。

「はぁ……」

大きな溜息を漏らし、何とか腹に収めようと料理へ手を伸ばしたその時だ。

「貴様ら!!!」

大袈裟な程に肩を震わせたのはカーラだけではなかった。スリザリンテーブルの誰もが驚いて広間の入り口を振り返ったし、それは他のテーブルも同じようだった。広間中の視線を受けながら駆け込んできたフィルチに、カーラはぎくりと身を強張らせて咄嗟に視線を逸らす。もしカーラがフィルチに捕まったら――Mrs.ノリスには既にバレてしまっているのだから、その可能性は十分ある――、もしそれがルシウスとナルシッサの耳に入ってしまったら?カーラは一瞬で青褪めた。
けれど、カーラの不安は的中しなかった。フィルチはその顔を怒りに歪めながらまっすぐにグリフィンドールのテーブルへと向かっていく。ルーシー達の所で立ち止まると、何とフィルチは上級生三人に向かって怒鳴り始めたのだ。

「よくも城をあんな……!!」
「はぁ?」
「俺ら何もしてない!」
「とぼけるな!! 廊下のあちこちに花を咲かせおって!!」

首を振る彼らの言い分などフィルチはこれっぽっちも信じていない様子だ。抗議する三人の横でルーシーが苦笑を浮かべながら頬を掻き、それからチラリとこちらに視線を向けた。ぎくりと身構えたカーラにへらりと笑うと、ルーシーは暢気にもローストビーフを頬張りながら成り行きを見守っている。あの野郎。心の内で口汚く呟いてカーラは額に手を当て溜息を漏らした。

「カーラ? 具合が悪いのか?」
「いや……大丈夫だ、ありがとう」
「そうか? ――それにしても、ウィーズリーの連中はどうかしてるよ。家の名を汚してばかりだ」

どうかフィルチが真実に気付かないままでいてくれますように。自分の所為でマルフォイ家の名に傷が付くなんてカーラには耐えられない。

「――何の騒ぎですかな」

不意に聞こえた静かな声。張り上げたわけでもないスネイプの声は、それでも広間中に響いた。

「こいつらが城のあちこちに花を……!」
「だから! 俺らじゃないって言ってるだろ!」
「今日は何もしてません!!」
「黙れ、ウィーズリー」

苛立ちを露わに黙り込んだ双子を一瞥したスネイプの視線は、迷うことなくルーシーへと向けられた。そんな、まさか――カーラは再び緊張した。もしかして、知られているのだろうか。もし、バレてしまったら――緊張と不安で喉を震わせたカーラの視線の先で、スネイプはじっとルーシーを見下ろしている。

「――Miss.カトレット、来なさい」
「でも、今日の罰則は終わったはずです」
「城中に咲いた花について、是非とも君の意見を聞かせて頂きたいのでね」

スネイプの声には確信めいた響きがあった。双子達やフィルチの驚いた顔がルーシーへと向けられる。カーラはキリキリと痛む胃を押さえながら小さく呻いた。あぁ、もうおしまいだ。

「まさか!」
「ルーシーがやったの!?」
「まさか。悪戯なんて仕掛けたことないよ」

嘘をつくな。どの口が言うんだ。声に出せたらどんなに良いか。引きずり回されただけの自分に非があるとはどうしても思えないが、それでもグリフィンドール生に巻き込まれたという事実だけでも醜聞だ。何としても隠し通さねばならない。

「来たまえ」

有無を言わさないスネイプの声に渋々と立ち上がったルーシーが双子に何か耳打ちしている。きらりと目を輝かせた双子を見るに、きっとまた碌でもない事なのだろう。
スネイプの後について大広間を出て行くルーシーを不安いっぱいな気持ちで見つめていると、不意にルーシーの目がこちらを見た。緊張するカーラにルーシーが口パクで何かを告げる。読唇術など会得していないカーラだが、それでも何となく読み取る事は出来た。

”大丈夫”

当たっていると信じたい。
馬鹿な奴だとルーシーを嘲笑うドラコに適当に相槌を打ちながら、カーラはそれはそれは大きな溜息を零すのだった。